二千四百八十四 沙奈子編 「労働者であること」
四月十六日。日曜日。曇り時々雨。
もし、『立場が人を作る』ってことじゃなくてその人がたまたま自覚を持って立派になれたということなら、立場が人を作るわけじゃないということだよね?。
でも僕は、確かにすべての事例でそうだとは言わないにしても、大事な仕事を任される立場になってそれで成長する人も確かにいるという実感もあるんだ。
波多野さんがまさしくそう。和菓子屋で大事な仕事を任されてて、すごく大人びた印象になってきてるんだ。仕事に対しても意欲を見せてるしね。
『SANA』で働いてるけど、まだ学生でもあって、学業を優先してたイチコさんと田上さんに比べても明らかに印象が違ってきてたんだ。
それに、波多野さんだけじゃなくて、世間一般でも社会人になったら印象が変わる人って多いんじゃないかな。これは、<社会人という立場>になったことで変わっていってるってことだよね。
思えば、『フリーター』なんて言葉まで作られるくらい、
『アルバイトはまともな社会人じゃない』
みたいな風潮もあったよね。それも、
『アルバイトだから適当にやってていい。どうせまともな社会人としては見られないし』
的な意識になってしまう人も出てくる原因なんじゃないかな。正社員であってもアルバイトであっても、
<労働を提供することで対価として賃金を得ている労働者>
という点ではなにも違わないんだから、僕は『アルバイトはまともな社会人じゃない』なんて考えないようにしなくちゃと思うんだ。少なくとも沙奈子や玲緒奈の前ではそんなことを口にしないようにしなきゃって。
親として、大人として、
『正社員もアルバイトも、労働を提供することで対価として賃金を得ている労働者であることは間違いないんだから、軽んじたり見下したり、ましてや蔑んだりなんてする必要はない』
って教えていかなきゃいけないと感じるんだよ。そうすることで、
『正社員であってもアルバイトであっても労働者には違いないんだから、自分に割り振られた仕事については責任をもって果たさなきゃいけない』
と教えていきたいんだ。と言うか教えていかなきゃいけないと思うんだよ。そうすれば、『バイトテロ』みたいなことをしようって発想も生まれないんじゃないかな。だって、
『アルバイトもれっきとした労働者なんだから、いい加減なことをしていていいわけじゃない』
って当人が思えてれば、バイトテロなんてしようとも思わない気がするんだ。そのためには親である僕がきちんと具体的に手本を示していかなきゃ。
ましてやアルバイトだからって軽んじたり見下したり蔑んだりなんてできないよ。
 




