二千四百八十三 沙奈子編 「働くということ」
四月十五日。土曜日。雨。
そうなんだ。正社員もアルバイトも、
『労働を提供してその対価として賃金を得る労働者』
という意味ではまったく何も違わないはずなんだよ。確かに職場において正社員はより重要な仕事を任されてたりするかもしれないけど、波多野さんはその辺りも別に大きな違いはないらしい。むしろ波多野さんだからこそ任されてる仕事もあるんだって。
イチコさんと田上さんについても、実際にはフルタイムの勤務になるというだけの違いしかなくて、事実上のアルバイトだった仮採用の時と仕事の内容も別にそんなには変わらないそうだ。
これも、どちらも『労働を提供してその対価として賃金を得る労働者』であることは変わらないからこそのものだと思う。それぞれできること、『提供できる労働の内容』によって違ってくるだけなんだよね。
『重要な仕事を任されるかどうか』についても、波多野さんは、正社員ですら任されていない人もいる仕事を任されているんだよ。アルバイトなのにね。
それは、波多野さんにはできるけど、その正社員の人にはできないことだから。
そんな話だって普通にあるはずだけどな。
一方、『バイトテロ』みたいなことをする人は、自分が任されている仕事について、当人自身が、
『どうせアルバイトだから』
って考えてるんじゃないのかな。でも、
『働くというのはそうじゃない』
っていうことをどうして知らないんだろう?。
『働くということについては正社員もアルバイトも関係ない。どちらも本質的には同じもの』
ということを知らない人がいるのはなぜ?。
それがなぜかは、僕にもなんとなく分かるよ。だって僕も両親からはそれを教わってないから。だから僕も、そのことを実は割と最近まで分かってなかった。
僕にそれを教えてくれたのは、沙奈子であり、玲那であり、イチコさんであり、田上さんであり、波多野さんなんだよ。みんなが仕事している様子を見ていたからこそ、そういうことなんだって分かったんだ。それがなければ今でもきっと分かってなかったと思う。
だって他の誰も教えてはくれなかったから。教えてもらってもないことを気付けるほど僕は『大変な才能の持ち主』っていうわけじゃない。
その程度の人間なんだよ。
『立場が人を作る』
というのが本当なら、『軽く見られて見下されて蔑まれることもある立場』は、そういう人を作るんじゃないの?。もしそうじゃないのなら、『立場が人を作るなんて話は嘘だ』ってことになるんじゃないかな。




