二千四百八十二 沙奈子編 「立場が人を作る」
四月十四日。金曜日。曇り。
『立場が人を作る』
という言葉があるよね。
『責任ある立場になることで責任ある振る舞いができるようになる』
みたいなことは、確かにあったりするらしいとは、僕も聞いたことがある。
それがどれだけ現実を表してるのかはよく分からないけど、ただ、
『アルバイトを軽んじて見下してる』
風潮があることで、アルバイトとして働いてる人の意識にも、
『どうせアルバイトだから』
的な認識が出来上がってしまうような気は、僕もするかな。
でも、『働く』ということについては、正社員もアルバイトも関係ないはずなんだ。本来は。労働を提供しその対価として賃金を受け取るということ自体は、正社員もアルバイトも同じはずなんだよ。
なのに、むしろ職場でこそアルバイトという立場を軽んじてるから、
『軽んじられる立場に応じた程度の責任感』
しか育たなかったりするんじゃないかな。波多野さんが正社員の人と変わらないかそれ以上の仕事をしてみせてるのも、ちゃんと正社員の人と変わらない接し方をしてもらえてるかららしいし。
正社員とアルバイトでは、なるほど待遇とか福利厚生とかで差があると思う。だけど逆を言えば、そういう形でしっかりと差がつけられてるんだから、その上で軽んじたりする必要がどこにあるんだろう?。そんなことをする意味はあるの?。なぜそんなことをしなきゃならないの?。『自分の方が上だ』って威張りたいから?。優越感に浸りたいから?。威張って優越感に浸ってストレスを和らげたいから?。
それ以外になんの意味があるんだろう?。
『立場の違いをわきまえさせるためだ!』
とか言うかもしれないけど、そんなのは待遇とか福利厚生の点で違いがある時点でもう分かることのはずだけどな。何より、『立場の違いをわきまえさせる』ことで何を得ようとしてるの?。やっぱり自分の方が上だって思いたいから?。優越感に浸りたいから?。それ以外に何の意味があるんだろう。
僕は、沙奈子や玲緒奈にそんなことをしてほしくないんだよ。そんなことを当たり前のようにする人になってほしくないんだ。そのためには、僕がそんな振る舞いをしないようにしなきゃと思う。イチコさんや田上さんが『正社員』になったのに対して波多野さんは今はまだアルバイトだけど、波多野さんは決してイチコさんや田上さんに比べて劣ってるわけでも努力してないわけでもないんだから、『どっちが偉い』とかじゃないんだって、態度で示していかなきゃいけないんだ。




