二千四百六十六 沙奈子編 「どっちなんだ?」
三月二十九日。水曜日。晴れ。
職場で怒鳴ったり罵倒したり嫌味を言ったり暴力を振るうことの意味が、僕には分からない。
そんなことをしなくても、ちゃんとする人はするはずだけどな。逆にその所為でやる気をなくしてしまったり、仕事の効率が下がったりする人もいると思うんだけどな。
『厳しくしなきゃ仕事しないのもいる!』
って言うかもしれないけど、その『厳しくしなきゃ仕事しない人』に仕事させるために、『厳しくしなくても仕事する人』のやる気を削いだり仕事の効率を下げたりしたんじゃ、なんにも意味がないと思うんだよ。
どうしてそういうことについて想定できないの?。それとも、想定したくないの?。
じゃあ、どうして想定したくないの?。
もしかして、自分がされてきたことを他の人にもやりたいから?。だったらそれは、『他人の所為にしてる』だけだよね。
仕事をさせる時にも、上手くできなかったり、ミスしたり、やる気を見せなかったら、『他人の所為にするな』とか言ったりするよね。それなのに自分の行為については他人の所為にするんだ?。
絵里奈は言う。
「確かに自分が思ってる通りにやってくれないとついついきつい言い方になってしまったりしますけど、きつい言い方をしたくなったりしますけど、それって要するに『自分の感情を優先したい』ってだけですよね。別に本当に仕事のことを考えてやってるわけじゃないですよね。自分の感情を優先したいだけなのを『仕事のためだから』と言い訳してるだけですよね。
私は自分がこうやって人を使って仕事をするようになって、仕事をしてもらうために指示を出す立場になって、ついついきつい言い方をしてしまいそうになる自分がいるのを改めて自覚させられました。イチコさんもフミさんも、真面目に仕事を頑張ってくれてるのに、別にきつい言い方をしなくてもちゃんと説明すれば分かってくれるのに、カッとなってしまったりすることもあるんです。
でも、真面目に仕事を頑張ってる人でも、ついうっかりなんてことはありますよね。しかも、イチコさんもフミさんも、自分がミスしたことについて反省できる人なんです。どうしてミスしたのかを自分で考えることができる人なんです。それを『怒鳴らなきゃ分からない』なんて、『分かってないのはどっちなんだ?』って話ですよね」
僕も、絵里奈の言うとおりだと思う。
イチコさんや田上さんは、そうなんだよ。それが分かってれば怒鳴ったりする必要はないって分かるはずなんだ。




