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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百四十三 玲那編 「家族の心得」

家に帰ると、絵里奈が「おかえりなさい」と僕を迎えてくれた。だけど沙奈子は、俯いたまま黙ってた。それを見てから改めて絵里奈に視線を向けると、彼女はすっと視線を逸らした。それで僕はピンと来てしまった。沙奈子が勝手に玲那のお見舞いに行ってしまったことを、叱ってしまったんだと思った。


「ごめん。嫌な役をやらせたみたいで」


僕がそう言うと、絵里奈はハッとなって僕を見た。そんな彼女を僕はそっと抱き締めて、背中をポンポンと軽く叩いた。それから沙奈子の方に行って膝をついて視線を合わせて、


「お姉ちゃんのことが心配だったんだね。分かるよ」


となるべく穏やかに声を掛けた。すると途端にポロポロと涙をこぼして、僕に抱きついてきたのだった。


「ありがとう、沙奈子。お姉ちゃんのことを心配してくれて。だけど勝手に行ったのは良くなかったかな。お母さんを心配させちゃダメだよ…」


沙奈子を抱き締めながら僕は言った。自分でも驚くぐらい冷静に言えた。山仁さんのおかげだと改めて思った。沙奈子はよっぽどのことがない限りちゃんと考えて行動できる子だ。児童相談所であったことみたいにパニックになることはあるとしても、今回のはきっとそうじゃない。たまたま玲那のことが心配で、しかも僕たちが仕事でお見舞いに行けないことを分かってて、だから自分が家族を代表してお見舞いに行ったんだと感じた。だって、良くないことをしてるって思ってたら、お見舞いに行ったことを大希ひろきくんに話したりしないはずだし。


そう、沙奈子は、彼女なりに良かれと思って行動したんだと思う。家族の一員として、自分に何ができるのかっていうのを考えて、その上でそれを行動に移したんだ。そこに何かマズい点があったんなら、ちゃんと説明してあげればこの子は分かってくれる。それを裏付けるかのように沙奈子は、


「ごめんなさい…、ごめんなさい…」


と謝ってくれた。だから僕は言った。


「明日からは、お母さんがお仕事から帰ってきてから一緒にお見舞い行ったらいいよ」


言いながら絵里奈の方を振り向くと、絵里奈も涙を浮かべて、


「うん、お母さんと一緒にお姉ちゃんのお見舞いに行こう」


って言ってくれた。


そんなわけで、この件はこれで終わり。絵里奈に抱きついた沙奈子を任せて、僕はお風呂に入った。


つくづく、子供を育ててるといろんなことがあると思った。さすがに今日みたいなことは何度もあると困るけど、たぶんもう大丈夫なんじゃないかなって感じた。


この子がどうしてそういうことをしたのか理解した上でないと、適切な注意もできないと思う。そのために親は冷静でないといけない気がする。何が良くなかったのかをきちんと理解してもらわないと、子供も自分の行動を理性的に考えられないって気もした。他でもない僕が、山仁さんにそう言ってもらえてスッと頭に入ってきたんだから。この子も同じだって思えた。


もし、一回で理解できなくても何度もそうやって説明すれば成長と共に理解できるようになるはずだよね。子供は成長してるんだ。昨日分からなかったことでも今日分かるようになることだってある。焦る必要はないよね。


それにしても、あの子は大人しそうに見えても力のある子なんだっていうのを改めて実感させられた。自分の考えたことをちゃんと行動に移せる子なんだ。それはきっと、生きるための力でもあると思う。生きるために必要な行動を自分で起こせるっていうことなんじゃないかな。


あの子がこの部屋に来たばかりの頃は、とてもそういう力を感じ取れなかった。僕が指示してあげないと、食事一つとれなかったかもしれない。そこまでじゃないとしても、決して自分から行動を起こすような子じゃなかった。余計なことをして大人に痛めつけられることをすごく怖がってた気もする。そんなあの子が誰に指示されなくても自分で考えて行動したんだ。少し考えが足りないところもあったとしても、行動を起こしたこと自体はあの子が成長してる証拠だって思える。それは認めてあげたい。


だって、あの子が自分で考えて自分の力で何かを成し遂げようとするその気持ちそのものは、自立心が目覚めてきてるっていうことでもあるんじゃないかなって気もするんだ。それを摘み取ってしまったら、あの子は今後、自分では何もできない人間になってしまうかも知れない。そんなのは決して好ましいことじゃない。失敗は失敗として学んで、次に活かせばいいんだ。


玲那の事件のことがなかったら、単に本当に怪我や病気で入院してるだけだったら、これからも沙奈子に一人でお見舞いに行ってもらっても良かったかもって思ったりもする。ただ今は、僕たち自身にそこまで心の余裕がない。申し訳ないけど、今は一人にはさせられないよ。ごめんな、沙奈子。


お風呂から上がって沙奈子と絵里奈を見ると、絵里奈の膝に沙奈子が座ってた。ちゃんと仲直りできたんだなとホッとした。でも僕が座椅子に座ると、やっぱり僕の膝に移ってきた。お膝は僕のがいいんだなあ。


ニュースをやってる時間だけど、テレビは点けなかった。そこで流れる内容が僕たちとは関係のない事件のそれだとしても、今はさすがに他人事として見られそうになくて見る気力がなかった。


その代わり、これから家族としてどう毎日を過ごしていくかの心得を話し合った。




一つ、苦しいことや辛いことがあれば無理せずちゃんと打ち明けること。


一つ、判断に迷った時は自分一人だけで判断せず、誰かに相談すること。


一つ、何か気付いたことがあれば報告し、情報を共有すること。


一つ、お互いに、普段と違う行動をする時はきちんと連絡をすること。


一つ、大切なことは、みんなで話し合って決めること。ただし、それが家族の誰かを束縛するものだった場合は無効とし、再度話し合うこと。




以上の五つの点を主な心得としてそれぞれ心掛けていくことを決めた。沙奈子は今回、連絡を怠ったという点で引っかかることになるけど、まだこれをちゃんと決める前だったからあまり煩くは言わないでおこうと改めて思った。でも次からはお小言くらいは覚悟してほしいかな。


もし、他に何か必要なことが出てきたらその都度、家族みんなで集まって決めていこう。でもそれは、家族の誰かを縛るためのものじゃない。それにこれは、玲那がいないところで決めた仮のものだ。玲那が戻ってきてからもっとしっかり話し合った上で正式に決めなきゃね。


これを決めたとしても、今回の玲那がしてしまったようなのを防ぐことが出来るかどうかは分からない。玲那が判断に迷っていたのは見てても分かったけど、だからって相談してもらえてたら行かせないという結論を出せたかはすごく疑問だと思う。ただ、どうしても、山仁さんの家で絵里奈が打ち明けてくれた内容を僕が知っていたら、もしかしたら行かせなかったかもしれないとは思ってしまうのだった。


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