二千四百二十八 沙奈子編 「明らかに治まって」
二月十九日。日曜日。雨。
沙奈子は必ずしも積極的に玲緒奈と遊んでくれるとか、そういうのはないんだ。そうやって玲緒奈の相手をしてくれることで僕が楽できるというのとかは実はない。
「よく、漫画やアニメとかで『下の子の面倒をよく見てくれるいい子』みたいなキャラとか出てくるけどさ、そういうのも結局は『親にとって都合のいい子供のテンプレ』だよね」
玲那が肩を竦めながらそんなことを言うけど、僕も、
「言われてみればそうかな。親がそれだけ楽をしたいという願望を形にしたものって印象はある」
と応える。さらに、
「ですね」
絵里奈も頷いて。
確かに、
『沙奈子が玲緒奈と仲良く遊んでくれてその微笑ましい光景に親である僕や絵里奈がほっこりする』
なんて描写があると喜ばれたりするのかもしれない。でも、玲緒奈自身が沙奈子とあんまり遊ぼうとしないんだ。
でもそれは決して、『玲緒奈が沙奈子を嫌ってる』ってことじゃないのは見てれば分かる。気が向いたら沙奈子の膝に座って寛いでたりするからね。ただあくまで、玲緒奈の遊び方との波長が合わないと言うか、自動車の玩具がお気に入りで、遊んでる様子を見てるだけだと男の子のようにさえ思える玲緒奈は、沙奈子に対しては自分と同じものを感じ取ってないのかもしれない。だから積極的に沙奈子と遊ぼうとはしない。自分と遊んでもらうことを一方的に望むこともしない。そんなことをしなくても僕が相手をするから、と言うか、『僕で遊ぶ』こと自体がお気に入りみたいで、沙奈子はそれを黙って見守ってくれるから好きって感じなのかな。
沙奈子と違って玲那は玲緒奈の遊びに合わせて自動車の玩具で遊んでくれようとするんだけど、しばらくは遊んでるんだけど、でもやっぱり最後は僕で遊ぼうとするんだ。
でも、だからって沙奈子も玲那もそれで機嫌を損ねたりしない。
『せっかく私が遊んであげようとしてるのに!』
みたいに怒ったりしないんだ。だから玲緒奈も、そうやって自分の思い通りにならないからって強く癇癪を起す必要を感じていないというのがありそうな気がする。
『自分の思い通りにならないからって強く癇癪を起す人』
が傍にいないから、そうするのを普通だとは思ってないってことかもしれないね。
もちろん、以前はそういうこともあったよ。玲緒奈は本来なら『我の強いタイプ』だっていうのは見てれば分かる。自分の思い通りにならないと、
「うばーっ!!」
とか声を上げて不満を表したりもしてた。なのに、成長するにしたがってそれが明らかに治まっていってるんだ。




