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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千四百十六 沙奈子編 「優しさじゃない」

二月七日。火曜日。晴れ。




「いってきます」


今日も沙奈子は、千早ちはやちゃんたちと一緒に学校へと向かった。玲緒奈れおなが望んだことで復活した『いってらっしゃいのキス』と『いってきますのキス』を、僕や玲緒奈や絵里奈や玲那と交わして。


高校の制服もすっかり体に馴染んで当たり前の姿になったな。


改めて、僕の部屋に『捨てられた』時の彼女の姿はもうどこにもないと実感する。一見しただけなら、本当に、


『どこにでもいる普通の高校生』


って印象だ。


だけど彼女は、世間一般で言うような『普通の境遇』じゃなかった。戸籍上で『母親』とされてる女性とは実際には血縁関係がないことが分かってて、血縁上の母親はいまだにどこの誰か分からない。彼女の血縁上の父親である僕の兄が、知人に依頼して偽装したらしいんだ。その知人の家は産婦人科だったこともあって、それができてしまったらしい。


そんなことを当たり前のようにしてしまえる父親は、沙奈子のことを愛してなんかいなかった。ただ『死なせると面倒なことになるから』と、交際してた女性たちに世話を押し付けて死なせないようにしてきただけだ。


だから、世話を押し付けられた女性たちも沙奈子に対して愛情なんかまったく湧くことなく、憂さ晴らし八つ当たりでただひたすらサンドバッグにしてきただけらしい。もちろん父親もそれを見て止めるどころか自分も同じようにしてきたみたいだね。その『痕跡』は、今も沙奈子の襟首に残ってる。左腕の傷はもうほとんど分からないくらいになったけど、『煙草の火を押し付けられたらしい痣』については今でも一目で分かる程度には残ってる。普段は髪で隠れてるから見えないだけで。


このこともあって、沙奈子は襟首を出すような髪型にはできないだろうな。本人もそれほど気にしてはいないみたいだけど、そういう痣が目に留まると邪推してくる人がいるのも事実だしね。痣が残ってることは気にならなくても、『痣を見た人が邪推してくる』ことは嫌みたいなんだ。


僕はそれが残念で仕方ない。


どういう人生を送ってきても、どういう境遇にあったとしても、今の沙奈子はただただ毎日を穏やかに過ごしてるだけなんだよ。


なのに、体に残った痣や傷跡を見て邪推して余計なことを言ってくる人がいるというのが残念なんだ。しかもそれをしてくる人の中には、『優しさ』のつもりであれこれ言ってくる人もいるだろうな。


だけどそういうのは『優しさ』じゃないと思う。『優しいと言われそうな振る舞いをしている自分が好き』なだけなんじゃないかなって気がするんだよ。



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