二千三百九十八 SANA編 「ポータブルトイレ」
一月二十日。金曜日。晴れ。
沙奈子たちが通う学校で、ついに陽性者が出たらしい。ただそれは、その生徒の家族が陽性判定が出て、濃厚接触者として検査を受けたら陽性となっただけらしいけど。一応、学校でもその生徒と接触があった人は検査を受けることにはなったそうで。
「いよいよって感じですね」
仕事から帰ってその話を僕と沙奈子から聞いた絵里奈が少し緊張した様子でそう口にする。他にも陽性者が出たら学級閉鎖も有り得るから、それについてはHPで報せることになるって。確かにHPには生徒から陽性反応が出た旨を報せる一文が。
とは言え、なってしまったものは仕方ないし、それに対してとやかく言う必要も感じない。秋嶋さんが感染した時のそれを基に必要な対応を心掛けるだけだ。だから、今はほとんど使われてない三階の部屋が『療養のための部屋』ってことになるかな。
「そんなわけで、家庭内での看護・介護を想定して、あれこれ用意しようと思うんだ。それで手始めに、ポータブルトイレと、ポータブルトイレを置くための簡易の個室を取り寄せようと思う。わざわざ階段を降りなくても用を足せるように、三階の階段脇に設置すればいいんじゃないかな」
僕の提案に、
「あはは♡ 面白そう!。やるやる!」
玲那が真っ先に乗ってきてくれた。こういう珍妙なアイデアにはだいたい彼女は興味を示してくれるから。
すると絵里奈も、
「そういうのが必要になってくることもあるかもしれないですからね。私も玲緒奈を妊娠してた時には一階でトイレに行くのもちょっと大変でした。部屋から出るだけでも億劫で」
とのことだった。お風呂に入るために二階に上がるのもつらいとのことだったから、結局、一階のシャワールームでシャワーだけで済ませてたのがほとんどだったし。
沙奈子も、
「お父さんがいいんだったらいい」
だって。普通に思春期を迎えた女の子だったらちょっと抵抗もあったりするのかもしれないけど、沙奈子は、家族の中だけなら平気なんだよ。こういうところも、彼女の精神年齢がまだまだ幼いと感じる理由の一つかな。
そんなわけで反対意見もなかったから、念のためにこの家のオーナーである星谷さんに、
「自宅介護とかのシミュレーションとしてポータブルトイレを使ったりしようと思うんですが、大丈夫ですか?」
と確認したら、
「はい、山下さんが退去なされた後は全面リフォームを予定していますので、原状回復等についても、契約時に申し上げていますとおり、躯体そのものに影響が出るようなものでない限りは必要ありません。自宅介護なとについても今は考えないといけませんからね。シミュレーションを積極的に行うのはよいことでしょう」
ってことだった。




