二千三百九十四 SANA編 「影響の一種」
一月十六日。月曜日。曇り。
沙奈子が『SANA』の社員になって僕の扶養から外れることがほぼ本決まりになっても、彼女の様子は特に変わらない。淡々と、ただ淡々と、人生部の活動をこなして、ドールのドレスを作って、その上で勉強も楽しんでるというだけだ。
分かりやすく華やかな『青春模様』みたいなのはなくても、彼女は彼女なりに今を楽しんでるんだよ。楽しみ方は人それぞれだ。馬鹿にしたり貶したり揶揄したりする必要はないはずなんだ。ましてや別に自分にとって害がないのなら。僕は親として、沙奈子たちの前で誰かの楽しみを馬鹿にしたり貶したり揶揄したりしないでおこうと思ってる。親がそんなことをしてたら子供もそれが当たり前だと思ってしまってもなにも不思議じゃないよね。
むしろ、他の誰かのことを馬鹿にしたり貶したり揶揄したりする人は、その親こそがそういうことをしてたんだろうなとしか思わない。もし親じゃなくても、すぐ身近な強い影響力を持った人がそれをしてたのは間違いないんじゃないかな。だけど、親が自分の子供に与える影響力で他の誰かに負けるというのは、むしろ親として情けないんじゃないかなとすごく感じる。
千早ちゃんが山仁さんの影響を強く受けるようになったのだって、あくまで母親が関わろうとしなかったのと山仁さんの家で過ごす時間がすごく長くて家族みたいになってたからのはずだし。
だけど同時に、母親の影響が強く残ってるのも、千早ちゃん自身も自覚してるそうだ。すぐにカッとなる性格とか。あくまでそれを意識して抑え込んでるだけで、それができるようになっただけで、元々そんな風にカッとなったりしないイチコさんや大希くんとはまったく違ってる。
その一方で、千早ちゃんのお姉さんたち二人は、上のお姉さんの千歳さんは割と地味な感じなのに対して、下のお姉さんの千晶さんは見た目にも派手な印象のある人らしい。そして一見した時の印象は、千歳さんが母親に一番似ていて、千晶さんはエキセントリックな振る舞いとかが一番似てるらしい。それでいて、母親に対して一番反抗的なのも千晶さんらしいけど。千早ちゃんはどちらかと言えば『諦め』と言うか『諦観』と言うか、ある意味じゃ『第三者』的な接し方になってるのかな。
血縁上は確かに家族なんだけど、気持ちの上では『お手伝いさん』として接してる感じなのかな。
だけど千早ちゃんがそういう接し方になってしまうのも、影響の一種とも言える気がする。




