二千三百九十二 SANA編 「ギリギリ大人で」
一月十四日。土曜日。雨のち曇り。
今日は土曜授業もないということで、沙奈子たちは水族館に行ってる。やっぱりハイヤーで。
「なんか俺たちのために申し訳ないな」
一真くんはそう言うけど、
「いいっていいって。前にも言ったけどこれは人生部の活動の一環だし、ハイヤーの代金も活動費に含まれてるし、タクシー会社とはピカ姉えが大口契約してるから普通に呼ぶよりはずっと安いんだよ。むしろ使わなきゃ損?って感じだって」
千早ちゃんが笑顔で説明してくれる。こういうところも彼女はしっかりしてるし、『経営者目線』みたいなのが確実に育まれてるのかなって気がする。
その千早ちゃんも、かなり大人びたところがある。家じゃ、母親もお姉さん二人も完全に彼女に依存してて、家事も家計の管理も千早ちゃんがいなくちゃまったく話にならない状態だって。
「脱いだら脱ぎっぱなし。ゴミはゴミ箱に入れるのも面倒がって床に置きっぱなし。ホント、私がいなかったらあの人ら、どうなるんだろうね」
呆れた様子でそうボやいてた。妊娠・堕胎ということがあった千晶さんに対しても、表面上は普通に接してるらしい。それを別にしても、こういうところはすっかり『主婦』なのかな。だから彼女の場合も『子供でいられない』ってことか。
何も急いで大人にならなくてもいずれはそうなるのに、大人が大人としてちゃんとしないからなんてのは、本当に情けないと思う。僕も大人の端くれとして。
ただ、沙奈子や玲緒奈に対しては、ギリギリ大人でいられてるのかな。ああでも、二人だけで暮らしてた時には食事については完全に沙奈子に頼ってる状態だったし、他人のことは言えないのか。だから、つい、
「駄目な大人でごめん」
なんて謝ってしまったりしたこともあったけど、沙奈子は、
「ううん……私、お父さんのこと、大好きだよ……」
と言ってくれたりも。精神的に幼いところがあるから余計に素直に言ってくれたのかもしれないと思うと、嬉しいような情けないような。
その沙奈子も、たぶん、夏休みまでには『SANA』の社員として登用することになるそうだ。でもその前に、一度、山下典膳さんと面会しておきたいって話になってるって。それというのも、お母さんの体調のこともあって実家に戻っていた山下典膳さんが、そのお母さんを看取ったことでこっちに戻ってくることになったそうで。
ただもうしばらく、遺品の整理とか財産分与とか実家の家の売却とかあれこれしないといけないことがあるから、戻ってくるのは早くても五月くらいになるらしい。
「お会いできるのが楽しみです♡」
彼のドールの大ファンである絵里奈は今から少し浮かれてたりもしつつ。




