二千三百八十九 SANA編 「私はまだこの家に」
一月十一日。水曜日。晴れ。
『SANA』の社員になって僕の扶養から外れることについて沙奈子は、
「私はまだこの家にいていいの……?」
と聞いてきた。それが彼女にとっての一番の不安なんだっていうのが分かった。これに対して僕と絵里奈と玲那は、
「当たり前だよ。沙奈子がいたいだけここにいればいい」
「そうだよ。沙奈子ちゃんが出ていきたいって言うんなら無理に止めないけど、私はまだ一緒にいたい」
「右に同じ。私はまだ沙奈子ちゃんとたくさん話したいことがあるんだ」
って答えさせてもらった。みんな本心からだ。
「僕たちは沙奈子のことが好きなんだよ」
改めてきっぱりと言わせてもらう。『恥ずかしい』とか『照れくさい』とかでそれを口にしないのなら、それはただの『甘え』だと思う。甘えるのはいいにしても、自分が甘えたいのなら相手が甘えることを許さないのは卑怯だと思う。
僕は伝えるべきと思ったことは伝えつつ、でもそれは甘えを許さないためじゃないんだ。あくまで僕がそれをちゃんと伝えたいと思うから。
「分かった。じゃあ、社員になる」
沙奈子は安心したように言ってくれた。お金の管理とかについては何も心配してない。彼女はこれまで受け取ったお金の大半を残してて、その上で、ぬいぐるみやキーホルダーを買ったりする時だけ使ってた。ドールについても、絵里奈から受け継いだ『莉奈』を今でもとても大切にしてて、他のドールを欲しがったりするわけでもない。彼女にとっては莉奈と、僕からもらった玩具の着せ替え人形の『果奈』が大事なんであって、ドールや着せ替え人形なら何でも欲しいというわけでもないみたいなんだ。少なくとも今のところは。
しかも沙奈子の場合は、いずれ専門的な洋裁の勉強をする時に必要なお金を自分で貯めてるというのもある。
その辺はもっと僕を頼ってくれたらいいのにと思いつつも、彼女がそうしたいと言うんなら余計な干渉はするべきじゃないのかなとも思う。
そうだね。沙奈子は今、『自分で生きられるようにならなきゃ』という想いと、『でもみんなと一緒にいたい』という想いとが、せめぎ合ってる状態なんだろうな。僕はそれ自体が成長だと感じてる。僕のところに捨てられたばかりの頃の彼女は、そんなことを考える余裕さえなかったはずなんだ。ただただ不安に押し潰されそうになってただけで、怖くて怖くて怯えるしかできないでいただけで。
なのに今では、ちゃんと自分がどうなっていくのかというのを考えた上で、それに対して不安を覚えてるんじゃないかな。不安そのものが具体的になってきてると思うんだよ。




