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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百三十八 玲那編 「現状把握」

山仁やまひとさんから話したいこと…?。それはいったい何だろう…?。


いろんなことが僕の頭をぐるぐると廻った。もしかしたら『もう二度と関わらないでほしい』とか『巻き込まないでほしい』とか言われるのかもしれないと思った。だけど、そう言われたとしても仕方ないとは思った。こんなこと、僕だって巻き込まれたくない。


絵里奈と沙奈子で温めた冷凍チャーハンをとにかく食べて、僕は二人を連れて山仁さんのところへと行った。二人だけで部屋に残しておきたくなかったからだ。


山仁さんの家に着いてチャイムを押すと、「はーい」といつものように明るい感じで大希くんが迎えてくれた。しかも「沙奈ちゃ~ん」と、手を振りながら千早ちはやちゃんも出てきた。その後ろから山仁さんが現れて「すいません、わざわざ来ていただいて」と頭を下げられて僕は恐縮してしまった。


そして今日は、僕と絵里奈と山仁さんが二階に、沙奈子は大希くんや千早ちゃんと一緒に一階で待っててもらうことになった。山仁さんについて二階に上がると、そこには、イチコさん、星谷ひかりたにさん、波多野さんの三人の外に、僕が初めて見る女の子が部屋にいた。


…って、これはどういう…?。


僕は正直言って戸惑ってた。いったいどういう状況なんだろうと思った。戸惑いながら改めてイチコさんたちを見ると、波多野さんがひどく落ち込んでるように見えた。彼女の背中を、僕が初めて見る女の子がさすってた。その様子が強烈なデジャヴとなって僕をさらに困惑させた。


すると山仁さんが静かに言った。


「実は、波多野さんのお兄さんが逮捕されたんです」


…はい…?。え…、なに?。…逮捕…?。逮捕されたって…?。お兄さん?。波多野さんのお兄さんが…!?。


たっぷり数秒かかってやっと意味が呑み込めた。


なんだこれ。こんな事ってあるのか…?。玲那が人を刺したってことが分かった日に、波多野さんのお兄さんも逮捕されたって?。え?。なんで?。


言葉の意味は分かってもやっぱり状況は呑み込めなかった。そんな僕に山仁さんがあくまで落ち着いた感じで語り始めた。


「市内のマンションに侵入して女性に乱暴したとして逮捕された高校生の男の子のニュースはご存知ですか?」


それを聞いた瞬間、ストンと何かが落ちるように僕も理解できた。あのニュース、波多野さんのお兄さんのことだったのか…!?。


どうしてこんなことが起こるんだ?。玲那が実の父親を包丁で刺して、波多野さんのお兄さんが女性を乱暴してって…。そんなこと、これまではどこか遠い世界のことだって気がしてた。この世の中で確かに起こってることなんだけど、僕だっていつそういう事件を起こしててもおかしくなかったとは思いつつも、でもやっぱり他人事でしかなかった。まさか自分達がそんなことに巻き込まれるとか、本心では思ってなかった。心のどこかでは、そんなこと起こるわけがないって思ってしまってた気がする。


でも、それは起こってしまった。今確かに、僕たちはそういうことの当事者になってしまったんだ。


しかも、僕たちの場合は、玲那がとても深くて重い闇を抱えててきっとそのせいでこういうことになったんだっていうのはある。玲那がこうなったのは、ある意味ではそうなる理由があってのことだった気もする。だけど、波多野さんのお兄さんの件は…?。


「起こってしまったことをいくら嘆いても無かったことにはなりません。ですから私たちは、これからどうするか、自分達に何ができてどうやって子供たちを守っていくかということを確認するために、それぞれが知ってること、分かってることの情報を共有し、それぞれにできることを考えるために、こうして来ていただいたというわけです」


山仁さんは、穏やかに、静かに、でも毅然とした感じでそう言った。それを聞いて僕も、自分の身が引き締まるのを感じた。今、大変な思いをしてるのは僕たちだけじゃないと感じられて、いっそう冷静になるのを感じてた。それは絵里奈も同じだったみたいで、泣きはらしてボロボロの顔だけど、でもそれと同時に意志の力を感じるそれになってた気がした。


それにしても、山仁さんはどうしてこんな時でも冷静でいられるんだろう…?。そう考えた時、僕の頭によぎるものがあった。


『もしかして、山仁さん自身こういう経験がある…?』


それが正解かどうかは分からなかった。だけど今は、山仁さんの冷静さが正直言ってありがたかった。なんだか支えられるような気持ちになって、ファンヒーターで温められた六畳ほどの部屋に、山仁さん、イチコさん、波多野さん、星谷さん、僕が初めて見る女の子、そして僕と絵里奈の七人がテーブルを囲んで集まったのだった。


「それでは、ここからは僭越ながら私が進行を務めさせていただきます」


山仁さんと目配せをした後でそう声を発したのは、星谷ひかりたにさんだった。正座をして背筋を伸ばし、その場にいる誰よりも力強い目をしてるように僕には感じられた。彼女が仕切るのは当然って気もした。


「ではまず、状況確認です。現時点で私が把握している概要をお話ししますので、事実と異なる点、補足が必要な点があればお知らせください」


と言って、星谷さんはニュースで伝わっている内容を基にして整理して僕たちに説明してくれた。玲那の件は僕たちが知ってることばかりだったけど、波多野さんのお兄さんの件については、僕にとっても衝撃的だった。だって、ニュースでは全く伝わってなかった、波多野さんの家庭の中で起こったことについても語られたから。


それは、他でもない、ここにいる波多野さん自身が、お兄さんから乱暴されそうになったことがあるという話だった。星谷さんがそのことを説明すると、続いて波多野さんが顔を伏せたまま言った。


「こんな事なら、あの時、警察に突き出してやればよかった…。家なんか滅茶苦茶になっても構わないから、あいつがやったことを全部ぶちまけてやればよかった…。こんな事になったら結局は滅茶苦茶じゃん…!」


顔を伏せたまま、波多野さんの体にぎりぎりという感じで力が込められていくのが分かった、そして、彼女は吠えた。声は決して大きくないけど、ものすごい力が、いや、憎悪が込められた呪いの言葉だったのは間違いなかった。


「こんな事になるんなら、あたしがあいつをぶっ殺してやってればよかった!!」


その言葉が突き刺さるのを、僕は感じてた。同じように家族が事件を起こしても、それをどう感じるのかは人によって全然違うんだっていうことを思い知った気がした。波多野さんの場合は、彼女の言ってることが本当なら、彼女自身が被害者だからっていうのもあるかもしれないけど。


そうだ。波多野さんの場合は、加害者の家族であり、しかも同時に被害者の一人でもあるんだ。その苦しさは、とても僕には理解できそうになかったのだった。


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