二千三百七十六 SANA編 「小さな失敗は」
十二月二十九日。木曜日。晴れ。
今日で『SANA』も仕事納め。明日からは三日まで冬休みになる。そして僕が務めてる会社は昨日で仕事納めだった。だけど、年明け早々に締め切りが来る仕事もあるし、締め切りにはまだ少し余裕がある仕事についても、ぼちぼち進めていこうと思ってる。これは僕が何もせずにただ休むというのができない性分だからというだけで、会社から指示されてることじゃない。ちゃんと就業時間中に集中してやれば十分に間に合うものなんだ。ただ、僕の場合、玲緒奈の相手をしてあげたいから、普通の就業時間中に集中してできないというのもある。
でもそれについては僕自身の問題だから、会社には迷惑を掛けるつもりもないんだ。これができるから在宅仕事を選んでるというのもあるしね。
だから、本当なら冬休みに入ってる今日も、リビングで玲緒奈の玩具になりながら仕事をこなす。
そして夕方。仕事を終えて帰ってきて沙奈子と一緒に夕食の準備をしてた絵里奈の前で、
「むひっ!。むひっ!!」
とか声を上げながら玲緒奈は僕の体を上ってた。だけどその時、
「でっ!?」
焦った声と共に玲緒奈がずり落ちてしまう。『ぼてっ!』って感じの音をさせながら床に倒れた彼女を見て、
「大丈夫!?」
僕も慌てて声を掛けた。だけど彼女は、
「ぶーっっ!!」
怒ったように口を尖らせて唇を鳴らしてただけで、泣いたりはしなかった。ウォール・リビング内の床は一面、ウレタン製のマットを敷き詰めてるから、多少なら頭をぶつけてもちょっと痛いだけで怪我をするほどじゃないはずなんだ。
すると玲緒奈は改めて僕の体を上り始めた。このくらいじゃへこたれない子だから。
それを見た絵里奈が、
「世の中には、『痛い目を見てこそ強い人間に育つ』とか言ってる人がいますけど、でもその一方で、些細な失敗すら許さない人がいますよね。そういうのを見てると、『どっちなんですか?』って私は思うんです。『失敗する』というのも『痛い目を見る』ということですよね?。命にまで関わるような『痛い目』は推奨して、周りがちょっと迷惑する程度の『小さな失敗』は許さない。本人がお手伝いとかをやりたがったりした時に『二度手間になるから』ということでやらせようとしなかったりするじゃないですか。二度手間になるような些細な失敗は許せないんですね」
って口にした。
「そうだよね。僕もそれは本来、逆なんじゃないかなって思う。命にまで関わるわけじゃない小さな失敗は経験として大目に見て、でも命に関わるような『痛い目』についてはあらかじめ致命的なことにならないように対処しておきたいよ」




