二千三百七十二 SANA編 「ガチャガチャ」
十二月二十五日。日曜日。晴れ時々雨。
今日はクリスマス。だから沙奈子たちは、大希くんの誕生日パーティに続けて『人生部』として一階の部室でささやかにクリスマスパーティをしてた。もちろんケーキは千早ちゃん謹製。プレゼント交換は、キーホルダーとか小さなぬいぐるみとかの、そんなに高くないものを交換する。でも、琴美ちゃんに対しては、みんなから、キャラクターもののキーホルダーが送られた。
「……ありがとう……」
普段はとても無口な琴美ちゃんも、この時ばかりはそう口を開いた。特に、結人くんからもらった、丸いサメの形をしたキーホルダーが気に入ったみたいで、大事そうにそれをぎゅっと握りしめる。
そんな彼女の姿を見た一真くんが、
「琴美がまだもっと小さかった頃、ガチャガチャをやりたがったことがあったんだ。でも母親はそれを見て、『我儘言うな!』って言って琴美をひっぱたいた。だから俺は、近所の人からもらって隠してたお年玉を使ってガチャガチャを回したんだよ。だけど出てきたのはハズレで、なんかよく分からない怪獣みたいなゴムの人形だった。それを見て琴美は泣きだしちまって……。
しかもそこに母親が戻ってきて『まだ我儘言うか!』ってな感じでまた琴美をひっぱたいて。ホントにショックだったな……。『子供のささやかなお年玉をこんな形で騙し取るのかよ』ってのもそうだし……」
と、苦笑いを浮かべながら語った。それを見た玲那が、
「まあ、『騙し取る』って言うか、ガチャガチャってそういうものだから。でも、ショックなのはそうだよね。しかもなけなしのお年玉でってなったらさ……」
だって。
確かに、当たり外れがあるものは、必ず外れを引くこともあるし、それ自体を楽しむものであって、お目当てのものを必ず手に入れたいとなったらやるべきじゃないんだろう。ただ、社会というものを学ぶための授業料としては、さすがに切なすぎるかなとも思う。
だけど今回は、それなりに人気のあるキャラクターのものだそうで、しかも結人くんから直接もらえたというのが本当に嬉しかったみたいだ。
「誕生日もクリスマスもパーティなんかしてもらった覚えもないけど、楽しいな。て言うか、『嬉しい』。こうやってみんなで楽しくやれるっていうのはこんなに嬉しいものなんだな……」
『パーティ』と言うには本当にささやかなもので、しかもプレゼントだって数百円のものだけど、みんなでこうやって穏やかな気持ちで楽しむということが一番なんだなって改めて思わされた。沙奈子も千早ちゃんも結人くんも、親しくなるまではまともにパーティなんかしたことなかったそうだしね。




