二千三百六十六 SANA編 「危ういなって」
十二月十九日。月曜日。晴れ。昨日よりもさらに寒い。
『法律もルールも自分に都合よく解釈して捻じ曲げて好き勝手するのって『自分の頭で考えてる』って言えるのかな?』
これについても、篠原さんは、
「私は、自動車とか来てない時までそんなちゃんと守る必要はない気がするけど……」
とのことだった。彼女がそんな風に考えること自体をやめさせようとは思わない。ただ、
「でもさあ、そうやって『信号をちゃんと守らなくてもいい』って考えてたら、信号をしっかり見るって意識も薄れちゃったりしないかなあ」
千早ちゃんが口にした。さらに、
「登校の時とか下校の時とかでも見るじゃん。信号守ってない生徒とかさ。しかもこれまでだって何度も、自動車来てんのに信号無視してクラクション鳴らされたりしてるのいたじゃん」
とも。これに対して篠原さんは、
「だけどそれは、ちゃんと自動車が来てないかどうかを確認してないのが悪いんであって、確実に来てないのが分かってたらそこまで堅苦しく考えなくてもいいんじゃないかなあ……」
だって。でも千早ちゃんは言うんだ。
「だからそこが私は危ういなって感じるんだよ。『ちゃんと自動車が来てないかどうかを確認してない』ってのは、前提条件として『信号なんて別に守らなくていい』って考えがあるからなんじゃね?。『うっかり信号を見落とした』ってのとは違う気がすんだよ。信号をちゃんと守ろうって普段思っててそれでうっかり見落とすのと、信号守る気なくて自動車が来てるかどうかだけ確認しようって考えててそれでうっかり見落とすってのは、『危険のステージ』が違わね?。
信号をうっかり見落としてても自動車来てなかったら事故にはなんないかもだけど、自動車が来てるのをうっかり見落としてってなったら、もうそのまま事故じゃん。自動車の方が気付いてくれてなかったらそれこそもうそこでアウトじゃん。登校の時とか下校の時とかにヤバい状態のとか何度も見てるってことはさ、そのうちそれこそ大きな事故になるんじゃね?。今までたまたま運がよかっただけっしょ」
「それはそうかもだけど……」
篠原さんはまだ納得できないみたいだけど、僕は千早ちゃんの言うことの方がずっと共感できる。と言うか、僕の考え方そのものだよ。千早ちゃんはそれを山仁さんから学んだんだろうけどね。
『信号とかただ守ってるだけの人間って何も考えてない』
みたいなことを言う人もいるみたいだけど、信号を守ろうとしてる千早ちゃんはここまでしっかりと考えてるよ?。それを『何も考えてない』って言う人の方が何も考えてない気がするんだけどな。
英田さんのお子さんが『ながら運転』の自動車に撥ねられて亡くなった件にしたって、ドライバーは、
『自分は事故を起こさない』
って考えて『ながら運転』してたんだろうしね。




