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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千三百五十九 SANA編 「一度や二度じゃ」

十二月十二日。月曜日。晴れ。




今日は、打ち合わせのために会社に向かう。


「いってら~!」


「いってらっしゃい」


玲那は出勤して沙奈子は登校して、それから玲緒奈れおなと絵里奈に見送られて家を出る。以前は僕がどこかに行くとなると拗ねてひっぱたいてきたりした玲緒奈だけど、今は笑顔で見送ってくれるようになった。待ってれば僕がちゃんと帰ってきてくれるというのを分かってくれたんだろうなって気がする。


こうなるまでには、それなりに時間もかかった。何度も何度も「痛いよ」って玲緒奈に伝えた。一度や二度じゃ分かってもらえなかった。でもね、だからこそ分かってもらえるまで続けようと思ったんだ。だって、ひっぱたかれてるのは僕たちだけだから。他の誰かを叩いてるわけじゃない。慌てる必要もなかった。時間をかけて分かってもらえばよかったんだ。


それに、ちゃんと言葉が分かるようになればいずれは伝わるという確信もあった。まだ生まれて間もない玲緒奈には、普通の感覚というのも十分に備わっていない。だけどその一方で、いつも不機嫌で乱暴な振る舞いをしてるわけでもないんだから、『乱暴な振る舞いをしなきゃいけない状況』を作らないようにすれば、問題なかった。玲緒奈を不安にさせたり怖がらせたり怯えさせたり警戒させたりしなければそれで済んだんだよ。


なにより、この子は『人間』だ。人間として扱うことで、人間としての振る舞いを学んでいく。時間はかかっても、いつしかしゃべれるようになるのと同じで理解できるようになると分かってた。山仁やまひとさんも、


「焦る必要はありません。一回や二回でできるようになるものでもありません。成長を待つしかないんです。一弧いちこ大希ひろきもそうして人間としての在り方を学んでいってくれました。時間はかかるものなんです」


と言ってくれてた。その通りだった。


「いってきます」


そう言って手を振った僕の頬に、玲緒奈はキスをしてくれた。絵里奈が僕の頬に『いってらっしゃいのキス』をするようにしたから、それを真似してくれてるんだ。さすがに唇へのキスは虫歯菌がうつるかもというのもあって避けたかったし、絵里奈にも頬にしてもらうようにしたら、玲緒奈も真似するようになってくれたんだよ。


「ありがとう」


僕も笑顔で頬にキスを返す。沙奈子の時は額だったけど、彼女は一緒に暮らし始めた頃にはもう四年生で、それなりに分別もついてたからね。でも玲緒奈は、自分が頬にキスしたのに額にキスされるのには納得いかなかったみたいで、


「ぶーっ!」


って怒ったりもしたな。だから今はこれでいいと思う。



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