二千三百五十八 SANA編 「矛盾した部分を」
十二月十一日。日曜日。晴れ。
たぶん、僕がこれまで綴ってきたことを他の誰かが見てたら、いくつも矛盾したことを言っていると感じるかもしれない。いや、きっと矛盾したことを言ってるんだろうなと自分でも思う。
そうだな。最近でも、千晶さんに乱暴した人らのことは許せないと思いつつも、だからといって具体的に何か行動を起こすわけでもないし、『警察に通報して逮捕してもらおう!』ってするわけでもない。これもれっきとした矛盾なんだろう。
玲那が、自分を買った客たち全員を探し出して一人残らず殺してやりたいと本心では思ってるのに、それを実行しないのも矛盾なのか。『今の幸せを壊したくない』という理由はあっても、『相反する気持ち』という意味では確かに矛盾だよね。
でも、それが人間なんじゃないかな。人間というのは、矛盾した部分を持っているからこそ人間なんだって気もする。
だから人間である僕自身、矛盾している部分を持ってるはずなんだ。そしてそれを自覚するからこそ、他の人の矛盾についても『そういうもの』として受け止めることができる。
他の人の矛盾がまったく許せないと考える人は、自分の矛盾に気付いてないか、気付いててもそれを許せない人なんだろうなって気がする。それで他の人の矛盾が許せない。ってことなのかな。
でもそれ自体が身勝手だよね。自分のことを棚に上げてたり個人的な感情を押し付けようとしてるわけだから。
僕はそういう点についても沙奈子や玲緒奈にちゃんと分かってもらわないといけないと思ってる。自分が矛盾しているのを棚に上げて他の人の矛盾を過度に攻撃するのは、いずれ自分自身に返ってくると思うし。そんなことをしていたら結局は自分が厄介事を招いてるだけになるから。自分で不幸を招いてるだけになるから。
自分が直接被害を受けた訳でもない相手を一方的に攻撃するなんていうのも、僕はしてほしいとは思わない。そんなのはただの『憂さ晴らし』でしかないよ。憂さ晴らしやストレス発散は、誰かを傷付けるような形ではしないでほしい。ましてやそれが原因になって不幸を招いたりなんて、本当に馬鹿馬鹿しいから。それこそ、自分よりずっと弱い相手、反撃できない相手を攻撃することで憂さ晴らししたりストレス発散したりなんてしてて訴えられたり警察沙汰になったりとか、愚か過ぎる。
そんなことになるくらいなら、僕に八つ当たりしてくれればいい。それは親である僕の役目だから。二人を育ててる僕の役目なんだ。少なくとも見ず知らずの赤の他人の役目じゃない。




