二千三百五十五 SANA編 「環境を台無しに」
十二月八日。木曜日。晴れ。
僕は、犯罪は犯罪として裁かれるべきだと思ってるけど、当人に対して僕個人が何か罰を与えようとかは思ってない。もしそれをしようとするなら、玲那の事件の際に彼女を攻撃してた人らのことを批判できなくなると思う。容疑者がしたことをしっかりと捜査して精査して罪として裁く必要があれば裁くのは司法の役目だ。それ以外の誰かの役目じゃない。
『行い』については批判もするけど、個人を責めるのは違うと思ってる。事情も背景も分からないしね。だから僕が見知った誰かが罪を犯したとしても、行いそのものは批判してもその人を責めようとは思わないんだよ。
波多野さんのお兄さんの件もそうだ。お兄さんのしたことは許せなくても、お兄さん本人に対して攻撃的でありたいとは考えないようにしなきゃと思う。
じゃなきゃ、玲緒奈がそれこそネット上で誰かを攻撃するような人になってしまうかもしれないからね。そういうのは親として望んでない。あくまで玲緒奈が法に触れるようなことをしないでいてくれたらそれでいいんだ。そのためにも、そんなことをして台無しにしてもかまわないような家庭にはしないでおこうと思う。
玲那が自分のしたことを反省できてるのも、それだから。そして、小学生だった自分を買ったお客を探し出してまで殺していきたいという気持ちを抑えられているのも、結局は今の幸せを守りたいからだしね。
それ以外の理由はないんだ。むしろ、『汚されてしまった今の自分には何の価値もない』という気持ちもあって、『失うものは何もない』的な考えになってしまいそうになるのは間違いなくあるから、今の幸せを『失っても別に構わないもの』って思うようになってしまったら、彼女には自分の復讐心を抑えておく意味もないんだよ。
それが『再犯を未然に防ぐ』というのもあるんだろうな。だから僕は玲那を幸せにしてあげないといけないんだ。『玲那にとって守りたいと思える家庭』を維持しないといけないんだよ。そのためには目先の感情に振り回されてちゃ駄目なんだ。
これを、沙奈子や玲緒奈にも分かってもらわないといけない。それが分かってれば、『イジメなんていう犯罪』にも手を染めないでいてくれる可能性がぐっと高まると思う。
実際、沙奈子はイジメなんてしてない。沙奈子だけじゃなく、千早ちゃんも、大希くんも、結人くんも、一真くんも。篠原さんもそうなれたらいいと思う。
『自分が今いる環境を台無しにしたくないからそんなことはしない』
って思ってもらえれば、自制も効きやすいと思う。
篠原さんはどちらかと言えば『イジメられやすいタイプ』にも思えるかもしれないけど、イジメ加害者というのは必ずしも一目見て『イジメそうに見えるタイプ』とは限らないそうだからね。




