二千三百四十三 SANA編 「悪くないと思う」
十一月二十六日。土曜日。晴れ。
千早ちゃんの様子も、すっかり以前の感じに戻った。と思う。少なくとも表面上は。
内心ではいろいろ思うところもあるかもしれないけど、いつまでも引きずり続けていてもそれで何かが解決するわけじゃないからね。沙奈子も篠原さんも、千早ちゃんを支えてくれてる。もちろん、大希くんも結人くんも一真くんも。
『自分は、自分一人の力で生きられてる』
とか口にしながら他の誰かをストレス解消に利用してるような人は、他の誰かの存在にストレス解消の方法を依存してるような人は、僕は『自分一人の力で生きられてる』なんて思わない。信頼も尊敬もできない。好きに生きててくれていいと思うけど、関わりたくはない。仕事とかで関わることがあっても、それ以上は遠慮しておきたい。どんなメリットを並べられても、何も魅力は感じない。
沙奈子や玲緒奈にも、無理に自分と噛み合わない人と必要以上に関わらなくていいような環境を作ってあげたいと思う。うちに帰ってきたらホッとできる環境をね。
ネットで誰かを攻撃することでストレス発散とかしなくても済む環境をね。
沙奈子も玲緒奈も僕の子供だ。見ず知らずの赤の他人には、沙奈子や玲緒奈のストレス解消・ストレス発散に付き合わされてなくちゃいけない理由も義理もない。その当たり前のことを僕はちゃんとわきまえていたい。
それをわきまえていたら、ネットで誰かを誹謗中傷したりイジメを行ったりする必要も減るはずなんだけどな。
ここまで、沙奈子も千早ちゃんも大希くんも結人くんも一真くんも、誰かをイジメるようなことはしてきてない。琴美ちゃんについても、学校からはそんな話は来てないそうだ。琴美ちゃんが通ってる小学校は沙奈子たちが通ってたのとは別だから対応が必ずしも同じだとは限らないにしても、
「琴美も落ち着いてるし、大丈夫だと思いますよ」
何もしてくれない両親に代わってこれまでずっと彼女を育ててきた一真くんもそう言ってる。
しかも、琴美ちゃんにん懐かれてる結人くんも、
「なんか嫌なこととかあったら俺に言えよ」
そう言ってくれてるんだ。これに対して琴美ちゃんも、
「……うん」
と頷いてくれてる。その上で、人生部の活動中は、ほとんど結人くんにべったりなんだ。最初は戸惑ってた結人くんも最近はすっかり慣れて、琴美ちゃんの好きにさせてる。膝に座ってきても、迷惑がったりしない。
その様子がまた、沙奈子が僕に依存するようになった頃のそれにそっくりで、なんだかむず痒いものも感じてしまったり。
でも、悪くないと思う。結人くんだったら大丈夫。




