二千三百四十二 SANA編 「別の大人を手本に」
十一月二十五日。金曜日。晴れ。
「今日、実は……」
『SANA』での仕事を終えて帰ってきた絵里奈が、夕食を食べながら何気ない感じでそう話し掛けてきた。僕は玲緒奈の夕食を手伝いながら耳を傾けると、
「帰りにいつも通りに買い物して帰ろうと思ったんですが、そこはセミセルフレジで、電子マネーで支払おうと思ったら読み取り機のところに他の人のカードが置きっぱなしになっていて、そのカードで決済されてしまったんです。だから店員にそのことを伝えたら、改めてレジで商品の読み込みをすることになって、二度手間になってしまいました」
だって。
「え、でもちゃんとカード忘れていってた人のは取り消しできたの?」
僕が聞き直すと、
「それが、そのスーパーのシステムだと取り消しはできないみたいなんですよ。店内放送したらカードの持ち主はまだ店にいたらしくてすぐに取りに来たんですけど、私と玲那で商品をバッグに移し替えてる時にやり取りが聞こえてきて、『電子マネーは取り消しができないので現金で返金します』みたいなことを言ってましたね。ああでもそれはその時の担当者がそう言ってただけなのかな。もしかしたらその担当者がシステムを理解してなかっただけかも」
とのこと。
すると玲那も、
「いや~、さすがにカードを忘れていったのを見たのは初めてだったし、まさかそのまま決済されちゃうとは思ってなかったからびっくりしちゃったよ」
頬をポリポリ掻きながら。そしてまた絵里奈が、
「カードを忘れた人が『ご迷惑をおかけしてすいません』って謝ってくれましたけど。そんな簡単に他の人のカードで決済されちゃうんだって思ったら気を付けないといけないと思いましたね。クレジットカードは後で決済する形だから取り消しもできるとしても、電子マネーは手続きが簡潔になってる分だけミスがそのままになりやすいみたいで」
神妙な面持ちで語った。『SANA』でもカード決済は採用してるけど、これは『注文を取り消す』という形で取り消しはできる。でもそのスーパーのはまた違うのか。
以前の、レジのシステムトラブルで現金でしか支払いができなくなったこととか、まだまだ新しい仕組みには課題が多いと感じたよ。現金での支払いだったらこんなこともなかったんだろうけどね。
「それに、もし悪意を持った人だったらそのまま知らんぷりして行ってしまってたかもしれませんね。たった数千円のこととは言っても、狡い人はいますから」
絵里奈の言うとおりだと思う。世の中には狡い人もいて、そんなことが平気でできしまったりする。
だけど僕たちは、そんなのは嫌なんだ。沙奈子や玲緒奈に対して顔向けできなくなるから。親がそんなことをしてて、子供が真っ当な感覚を持つように育つなんてどうして思えるんだろうって感じる。
もちろん中にはロクデナシな親を持ちながら真っ当にな大人になれた人もいると思う。沙奈子や結人くんや一真くんはそうなりそうな気がする。
だけどそれは、親とはまた別の大人を手本にできたからじゃないのかな。




