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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千三百三十三 SANA編 「自分の姪か甥」

十一月十六日。水曜日。晴れ。




篠原さんが人生部に戻ってきたのは、彼女自身が自分の気持ちに折り合いを付けられたと言うよりも、千晶ちあきさんの妊娠のことで千早ちはやちゃんがショックを受けて、それどころじゃなくなったからって感じだったみたいだね。


だけどこれ自体、人生には割とあることじゃないかな。


『自分が抱えている問題より大きな問題が周りで起こってそれで悩んでる暇さえなくなった』


なんてのも。それは同時に、篠原さんにとって千早ちゃんの存在がどれだけ大きいかというのも表してる気がする。どうでもいい人のことだったらここまで気にしないだろうし。ある意味じゃ、そこまで気にできる相手に出逢えたということでもあるんじゃないかな。


その上で、妊娠、出産、そして堕胎という、命にまつわる大きな出来事を身近に感じることで、彼女自身もいろいろ考えさせられたんだろうなって感じもする。


そうして、夜、千早ちゃんからビデオ通話で連絡があった。


「今日、千晶えが子供を堕胎おろしてきたそうです……。もうとっくに予約は入れてて、それで……。予約入れたのを私に話したらまたキレられると思って黙ってたって……。千晶えはケロっとしてて、『やっぱ子供なんて要らんわ』とか言ってて……。『じゃあ、お前が生まれてこなきゃよかったじゃん!』って思ったんですけど、言えなくて……」


あの快活で元気で前向きな千早ちゃんが、普段のそんな姿からは想像もできないくらいにポロポロと涙を流しながら、大希ひろきくんに背中をさすられながらそう話してたのを、僕と沙奈子と絵里奈と玲那で聞いた。彼女は今日はもう、自分の家ではいたくなかったそうで、お姉さんの顔を見たくなかったそうで、山仁やまひとさんの家に泊まることにしたそうだ。ビデオ通話は、山仁さんの家から大希くんのパソコンを使ってのものだった。


「千早……」


沙奈子が、心配そうに彼女の名前を口にした。


「……」


僕も、絵里奈も、玲那も、言葉もなかった。たぶん千早ちゃんも、僕たちに慰めてもらおうと思って連絡してきたんじゃないんだろうなというのは分かった。ただとにかく、話を聞いてほしかっただけなんだ。吐き出したかっただけなんだ。って感じる。


自分の姉に子供ができてそれを堕胎したってだけでこんなに感情的になるのはおかしいと感じる人もいるかもしれない。確かに以前の千早ちゃんならもしかしたら逆に『お前がバカなことしてるからだ!』とか言って罵倒したかもしれない。だけど今の彼女はもう、そうじゃないんだろうな。自分が生まれてきて、嫌な思いもしながらでもここまで生きてきて、それで今は幸せだったからこそ、生まれてもこれなかった自分の姪か甥のことに強く揺さぶられてしまったんじゃないかな。



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