二千三百二十七 SANA編 「子育てだって同じ」
十一月十日。木曜日。晴れ。
『私も、千晶姉えの子供ってことなら、相手の男のことなんかどうでもいいから、生まれてきてほしいって思うんだ』
千早ちゃんがそう発言したことも、彼女の成長を表してる気がする。なにしろ以前には、自分が虐げられてきたことに対するに仕返しをしたいと思ってたらしいし。
ただ、千早ちゃんが料理をするようになって、それ以外の家事もするようになって、石生蔵家を実質的に支えてるのが彼女になってからは、母親もお姉さんたちも彼女に対してそんなに強く出ることはなくなってたって。
だけどそんな母親も、さすがに今回のことでは、千晶さんの堕胎に反対する彼女に対しては『あんたに子供を生んで育てることの何が分かる!?』と声を荒げてしまったそうだ。授業参観にもいかない。個人懇談にもいかない。卒業式にも入学式にも出ない。PTAの活動も断固拒否。そんな人がよくそれを口にできたと思うんだけど、子供のための行事にまったく協力しないからこそ、自分にはそれができないからこそ、『子供を育てるというのはそれくらい大変だ』と言いたいのかもしれない。
もっとも、僕にはそこまでの実感はないけどね。もちろん楽だとは言わないよ。だけど『できない』とは言わないし、なにより『やりたくない』とは僕は思わないんだ。余力さえあればあと二人でも三人でも育てたいと思ってる。
今、玲緒奈を育ててることが本当に楽しいんだよ。やりがいを感じられる。今の僕にとってはそういうものなんだ。
『子供を育てる』
というのは。
もちろん、完璧にはできないよ。失敗することもあると思う。大希くんが山仁さんに言ってしまったみたいに『お父さんって子育て下手だよね』みたいに言われることだってあるかもしれない。でもそれは、仕事だって同じだよね?。誰もが完璧に仕事をこなせてるわけじゃないよね?。会社が望む成果を常に出せてるわけじゃないよね?。失敗することだってあるよね?。子育てだって同じだよ。
完璧にできないなら子育てなんかしちゃいけないって言うのなら、仕事だって完璧にできないならしちゃいけないんじゃないの?。
何より自分の祖先を馬鹿にしてると思うし、そんなだから『高齢者は切り捨てるべき』みたいなことまで言えちゃったりするじゃないのかなって気しかしないよ。
人間なんだから失敗だってする。それは親も変わらない。大事なのは失敗した時にそれをちゃんと認めて反省することだと僕は思う。親がそういう姿を子供の前で見せてこそ、子供も失敗を反省して経験として活かしていけるようになると思うんだよ。それができない人は、親がそういう姿を見せてくれてなかったんじゃないかな。




