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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2322/2601

二千三百二十二 SANA編 「育ててあげるから」

十一月五日。土曜日。晴れ。




今日も篠原さんは来ない。でも、千早ちはやちゃんから、


『沙奈のデザインの件もあるし、みんなで行ってきてよ』


って言われたから、土曜授業が終わってから行くことになった。もちろん、ハイヤーで。


でも、それは千早ちゃんがいない以外はいつも通りで問題なかったんだけど、篠原さんが習い事に行くから帰ってきた千早ちゃんが、


「山下さん、ちょっと話を聞いてもらっていいですか……?」


人生部の部室からビデオ通話を通じて話し掛けてきた。そのただならぬ様子に、僕も絵里奈も、


「うん、いいよ」


「何があったの?」


思わず姿勢を正して。すると千早ちゃんが、


千晶ちあきえが、妊娠したんです……」


だって。


「え……?」


思いもかけない方向からの話に、一瞬、頭が働かない。てっきり篠原さんのことだと思って身構えてたのに。


『千晶え』ということは、千早ちゃんのお姉さんで、確か三歳(だったかな?)年上の、石生蔵いそくら家の次女だったよね。三歳年上だとしたら、今は十九歳か。


だけど十九歳ならもう成人ということのはずだから、そこまで気にしないといけないことなのかな。パートとは言ってももう働いてるし。


でも千早ちゃんが言うには、


「千晶え、なんかチャラいのと付き合ってたみたいなんですけど、彼氏の家に遊びに行った時に眠剤かなにか飲まされて眠らされて、マワされたみたいなんです。それ自体は本人はあんまり気にしてなかったみたいでまあいいとして、でも妊娠してるのが分かって、そしたら彼氏、逃げちゃって、連絡も取れなくなって……」


さすがにその話には、『うわあ……』と思ってしまった。さらに千早ちゃんは、


「だけど、生んでも育てられないからって堕胎おろすって言ってるんです……。私、なんでそんな簡単に自分の子供を堕胎おろすとか言えるのか分からなくて……。『あんた、何言ってんの!?。バカだろ!!』って思わずひっぱたいちゃって……」


目に涙をいっぱい貯めて……。


「そう…、なんだ……」


僕も絵里奈もなんて応えていいのか分からなくて、そうとしか言えなくて。


確かに僕も、


『育てられないならどうして子供ができるようなことをするの?』


って思う。その上で、


『育てられないなら僕たちが育ててもいいのにな』


とも思ってしまう。だけど、いくら千早ちゃんとはこうして家族同然の仲でも、千早ちゃんのお姉さんたちとはまったくと言っていいくらいに関りがない僕たちが、


『自分たちが育ててあげるから生め』


なんて言えるわけもない。そんなことは分かってるんだよ。


だけど千早ちゃんが、


『せっかく授かった命なのに』


と思うのも、分かる気はするんだ。



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