二千三百二十 SANA編 「関心も示さない親」
十一月三日。木曜日。晴れ。
『新型コロナウイルス感染症のワクチン接種』がいよいよ本格的になってきたらしい。これを受けて、星谷さんが、
「せっかくですので、『SANA』として集団接種という形を取ることにしました。絵里奈さんと玲那さんだけでなく、山下さんも関係者という形で接種していただけます。また、万が一、副反応が出た場合には、行政からのサポートを待たず、『SANA』として独自にサポートいたします」
と言ってくれた。
ワクチンについてはいろいろ言われているけど、どちらのリスクを取るかということなら、僕は『ワクチンで副反応が出るリスク』を取ることにしようと思う。『新型コロナウイルス感染症に罹ることで生じるリスク』に対処したいから。
だから今度の日曜日に、集団接種会場で『SANA』の関係者として受けることになった。
「これまで確認されている副反応と思しき事例を基に、体制を整えています。すでに私が所有する他の企業での接種も始まりました。ここまでのところ、発熱や倦怠感というものが報告されていますが、いずれも給与保障の上で提携病院にて対応していただきました。係る費用につきましてはすべて会社負担となります」
ということだから、『不安がない』とは言わないけど、まだ抑えられてるんじゃないかな。
その一方で、沙奈子たちについては今回は見送りということになった。
そういうのもありつつ、僕たちの日常そのものは相変わらず平穏かな。篠原さんの件は気がかりだけど、これも僕たちが焦れても仕方のないことだしね。決めるのは彼女自身だから。
篠原さんが人生部に来なくなった理由は、たぶん、一つだけじゃないと思う。人間ってそんなに単純なものじゃないはずだし。
『大希くんと恋人関係になれる可能性が見えない』
ことも、
『相手を人間だと認めるからこそ何一つ正確じゃないことを言わないなんてことはないと理解する』
『成人するまでのたった数年すら待てないような人に誠意なんてない』
と僕たちが考えてることも、そういうの全部合わせて居心地が悪いんだろうな。
ただ、やっぱり、いくら愛情に飢えてるからって篠原さんが大希くんと『深い仲』になることまでは、今の時点では応援できないな。それでもし妊娠してしまったりしたら、誰も幸せになるビジョンが見えないんだ。
山仁さんなら、
『子供は引き取ってこちらで育ててもいい』
と言ってくれそうだし、僕も協力したいと思うけど、篠原さんのご両親の方がそれで済むとは思えないし。
自分の子供がそんなことになっても関心も示さない親だったらむしろ僕たちが力になれる気はするにしてもね。




