二千三百十四 SANA編 「人間の心理の難しさ」
十月二十八日。金曜日。晴れ。
『相手を人間だと認めるからこそ何一つ正確じゃないことを言わないなんてことはないと理解する』
『成人するまでのたった数年すら待てないような人に誠意なんてない』
僕たちがそんな風に考えていることに対して篠原さんが違和感を覚えてるらしいということが、最近、分かってきた。
もちろん、
『僕たちの考え方こそが正しいんだから四の五の言わずに従え』
なんて言うつもりはないけど、だからと言って篠原さんの考え方に僕たちが合わせるのも違うと思う。だからもし、彼女が僕たちと距離を置くんだとしたら、それを責めることはしないでおこうと思ってるだけだ。
これは、館雀さんの時と同じだよ。館雀さんがイチコさんたちと和解できないままになったことについても、それは人間である以上は当然なんじゃないかな。僕たちが館雀さんの考え方に迎合できないのと同じで、館雀さんも僕たちの考え方には迎合できなかった。だから距離を置く。
それは自然な流れだと思う。
館雀さんのことについては、星谷さんも詳しくは確認していないそうだからよく分からないけど、あまりいい評判は聞こえてこなかったらしい。行く先々でトラブルを起こしては喧嘩別れみたいなことを繰り返していたというのが、大学に進学してからもあったみたいだ。
彼女がそういう生き方をしていることは残念だけど、だからと言って僕たちが彼女の生き方に干渉するのも、本人がそれを望んでいないのなら迂闊にできることじゃないよね。
篠原さんの場合は館雀さんほどじゃないとしても、彼女のために僕たちの方が考え方を変えるというのは、やっぱり難しいよ。だから彼女が袂を分かつというのなら引き留めはしない。ということになるだろうな。
もちろん、いい関係を続けられればそれに越したことはないんだけど……
ただ、大希くんとの関係については、相手が悪すぎると思うかな。星谷さんが相手だと、あんまりにもあんまりだよね。それでも大希くんが篠原さんのことを好きになってくれるのなら可能性はあるんだとしても。でも、今の大希くんからは篠原さんへの特別な感情はまったく見えてこない。本当に『ただの友達』としか見てないのがすごく伝わってくる。
篠原さんとしては大希くんと付き合えればと思ってるんだろうな。
「ヒロにはピカ姉えがいるからなあ……」
千早ちゃんもそう口にしてる。すると篠原さんは、
「私は別にそこまでは……」
遠慮してるようにも振る舞いつつ、『私のことを見てほしい』と思ってそうなのが見え隠れするんだ。
この辺りも人間の心理の難しさかな。




