二千三百九 SANA編 「ちゃんと対処できた」
十月二十三日。日曜日。曇り。
実のお父さんである山仁さんに対して、
『お父さんって子育て下手だよね』
と口にしてしまった大希くんについて、『まさか彼がそんなことを言うとは』って驚いてしまったけど、そうだよね。彼がそんなことを言わない子だって思ってたのは、それは僕が勝手にそう思ってただけだ。これも、
『まさかそんな人だとは思わなかった』
みたいな話だよね。『まさかそんな人だとは思わなかったなんて、迷惑千万』だって考えるなら、大希くんのことも勝手なイメージで決めつけちゃいけないよ。
彼はあくまで、『子育てが上手だったら、自分のことをもっと強い人間に育ててくれたんじゃないのかな?』と疑問に思ってしまっただけみたいだ。
だけど根本的に『強い人間』ってどういう人のことを言うのかな?。
『他の誰かの言葉には耳を貸さずに自分の考えばかりを押し付けようとする人』
のこと?。
『相手の痛みとか苦しみとかそういうのを気にせずに暴力で支配してくる人』
のこと?。
少なくとも僕はそんな人を『強い』なんて思わないんだけどな。千早ちゃんも言ってた。
「でもさあ、『強い奴』なんて、私らの周りにもそんなにいない気がすんだけどな。だってそうじゃん?。しょーもないことで誰かのことをバカにしたりしてるのが『強い奴』なのかよ?。しょーもないことでいちいちキレてる奴がホントに『強い奴』なのかよ?。私の母親なんかしょっちゅうキレ倒してるけどさ、私はあの人のことを『強い人』だなんて感じたことないよ?。『めんどくさい人』とは思うけどさ。てか、めんどくさくて弱い人だよね。あんな風に先にキレて相手を威圧しなきゃいられないんだろうなとしか思わない。ホントは弱虫の怖がりなんだよ」
そこに結人くんも、
「だよな。弱えーからイキがってないと怖いんだろ。六歳の子供相手に殺す気で首絞めるとか、自分より弱い相手だからできただけだろ。今の俺だったら逆にボッコボコにしてる気がする」
不愉快そうに顔をしかめながらも言ってた。彼の場合は口だけじゃなくて本当にできると言うか、実際に喧嘩でそれをしようとしたから転校する羽目になったわけで。
一真くんも、
「間違いなくうちの親もそうだよなあ。歯向かってこない相手、自分が絶対に負けない相手にしか、イキがれないんだ。俺の知ってるだけでも、『ホントに強い奴』なんてどこにいるのか分からない」
苦笑いだった。
本当にそうだよね。大希くんは確かに心折れて不登校気味になったかもしれないけど、今はちゃんと毎日学校に通えてる。それって山仁さんがちゃんと対処できたってことなんじゃないかな。




