二千三百八 SANA編 「子育て下手だよね」
十月二十二日。土曜日。晴れ。
今日は土曜授業はないから沙奈子たちは朝から人生部の活動中。すると、大希くんが、
「僕なんかお父さんに、『お父さんって子育て下手だよね』って言っちゃったもんな」
って口にしたのが、ビデオ通話越しに耳に入ってきた。どうやら『反抗期』についてみんなで話し合ってたらしい。それ自体は別にいいんだけど、まさか大希くんが山仁さんに対してそんなことを言ってたなんて思わなかったから、ハッとなッとしまった。それについて、
「うえ?。ヒロ、あんた小父さんにそんなこと言ったん?。小父さんで子育て下手だってんなら私の母親なんてどうなるんだよ?」
「まったくだ。俺の母親なんて自分の子供の首絞めて殺そうとしてんだぞ?」
「うちの親もなあ……」
「私は山仁くんのお父さんのこと知らないからよく分かんないけど、そうなの?」
千早ちゃんと結人くんと一真くんと篠原さんが。確かに、千早ちゃんのお母さんも、学校の行事にも保護者参観や個人懇談にも一切参加しないっていう、『放任主義』と言うにも無理がある状態だった。結人くんのお母さんはそれこそ彼が言う通り子供の首を絞めて殺害しようとした上に行方をくらましてそれっきりで、一真くんの両親は子供のための支援を自分たちの飲み食いや遊興に使ってしまう有様で、篠原さんの両親はお金こそ出してくれるけど彼女とはロクに顔も合わそうとしない人たちだそうだから、それに比べれば山仁さんは、僕から見るとすごく丁寧に接してくれてると感じるんだけどな。
だけど大希くんからすると、
「でも、あん時はそう思ったんだよ。『ホントに子育て上手かったら、僕のこともっと心の強い人間に育ててくれるんじゃないの?』って思ったんだ。今でも正直言うとまだそう思ってる」
ということらしい。これについても千早ちゃんと結人くんと一真くんは、
「いや、まあ、それ言ったら確かもそうかもだけどさあ……。けどさ、『強い』って『何がどうだったら強いんだ?』って話になんね?。誰かのことなんかっちゃバカにして貶して見下して嗤ってる奴が『強い奴』なんかよ?。私にはそうは思えないんだけどな」
「だよな。そんな奴、ホントは弱えだろ。弱えからそうやって誰かを見下してねえといられねえんじゃねえの?」
「俺もそう思う。うちの親もいっつもイキり倒してるけど、あれは本人が強いからじゃないってのはすごい実感があるんだよ。ホントは弱いから虚勢張ってないと怖いんだってのがバレバレなんだ」
って。僕もそう感じるけど、確かに大希くん本人としては、自分が、目標や目的を持ててないことを気に病んで落ち込んでしまうような弱い人間だったことについて山仁さんの育て方に問題があったんじゃないのかな?と思ってしまったんだろうなとは、感じてしまったりも……。




