二千三百二 SANA編 「狡い人が得を」
十月十六日。日曜日。晴れ。
「海外での売り上げがすごく上がってきて、いい感じかもしれないです」
今日は絵里奈と玲那の誕生日。千早ちゃんが作ってくれたケーキでささやかにお祝いした後、絵里奈が星谷さんと会議した上でそんな風に言ってきた。
「へえ、それはすごいね」
僕が応えると、
「しかも沙奈子ちゃん謹製のオリジナルが、オークションを通じて海外のコレクターに渡ったりってこともあるってさ」
玲那もそんな風に。
まあでも、それについてはあくまで『余禄』かな。ただ、
「せっかく手に入れた沙奈子ちゃんのドレスをそうやって手放す人がいるっていうのは少し残念ですけどね」
とも、絵里奈は苦笑いで言ってた。だけど同時に、
「それぞれ事情はあるでしょうから、『SANA』としてはこれについて見解を示すのは今のところは控えようと思います」
とのことだった。
「確かに。ここのところの社会の状況を考えると、それこそ『やむにやまれず』っていう人もいそうだからね。職を失ったりして『生きるために』というのもあるかもだし」
僕もしみじみそう思った。
「だよね。転売目的に買おうにも、『買占め』みたいなことはできないしさ」
そうだった。今、沙奈子の手作りドレスについては『抽選』という形で購入者が決められるようになってる。オークション形式だと高騰し過ぎる可能性があるということでそうなったんだ。しかも、『SANA』の商品を購入した人が権利者で、一人一回という形で応募できるってことで。
これについては洲律さんの意見も参考にさせてもらってる。
「とにかく金にあかせてってのはちょっと納得いかないんです。早い者勝ちというのも、今はなんかそういうアプリを組んでる人もいるらしいし。だったらそれこそクジで運任せの方がまだマシというか」
だって。星谷さんによると、『早い者勝ち』だった頃に実際に販売開始のタイミングに合わせてサーバーにすごいアクセスが集中するということがあったらしい。『SANA』のこれまでの顧客数の数倍のアクセスがあって、さすがにこれはおかしいと。解析してみたら同じIPから何百っていうアクセスがされてて。
「もはやDos攻撃だよ。うちの企業の規模がまだ小さいから何百とかのレベルで済んでるけど、ちょっと大きなところになるとそれこそHPのダウンにもつながりかねないヤツだよね」
玲那が険しい表情で。
その点、商品の購入者に応募の権利がある抽選って形にしたら、複数の名義を使おうにも限度があるだろうし、複数の名義を作るためにそれぞれ商品を買ってたら、いくら沙奈子のドレスを手に入れて転売したって儲けが目減りしてしまうだろうしね。
「それでも、お金を持ってるからたくさん出せるというのはまだ分かりますけど、狡い人が得をするというのはもっと納得いきません」
というのが洲律さんの意見だった。




