二千二百八十一 SANA編 「確かに不健康」
九月二十五日。日曜日。晴れ。
いよいよ『ウォール・リビング』の役目も終わりに近付いてきた実感に、次の対策を考えないといけないなと思わされる。まずは、二階のミニキッチンは片付けて、使わないようにすること。そして風呂場の扉には、玲緒奈の手が届かない上の方に鍵を増設して、開けっ放しにしないこと。同時に、解放センサーを付けて、ドアが開いたらチャイムが鳴るようにもする。さらに二階のベランダは、当面の間、使わないようにするのと、こちらも解放センサーを付けて開いたらチャイムが鳴るようにする。洗濯物は一階の裏に干す。
三階への階段と一階への階段のところには改めてベビーゲートを設置して、玲緒奈が勝手に近付けないようにする。
とはいえ、実際にそれを行うのはもう少し後になるかな。今はまだ、ウォール・リビングの壁を越えられそうにないからね。ただ、彼女が確実に成長してきてる実感には、胸があたたかくなるのも感じる。
しかも玲緒奈はすごく朗らかで明るい子だ。誰に似たのかと思うけど、でも実は絵里奈が赤ん坊だった頃はこの感じだったらしい。成長するに伴って両親への反発心が芽生えて家ではほとんど口も利かなくなっていったらしいのもありつつ。
だけど玲緒奈にはそんな風になってほしくないな。だからむやみに反発せずに済むようにはしたい。
『反抗期は子供の自我が目覚めてきたことの証拠だから、それがないのはおかしい』
みたいなことを言う人もいるみたいだけど、僕はむしろその考え方自体に違和感しかない。イチコさんも大希くんも、反抗期らしい反抗期なんてなかったそうだけど、ちゃんとそれぞれ自分で自分の生き方については考えてるし、それを実行しようとしてるよ。
『子供の自我が目覚めること』と、『親に反抗すること』は、必ずしもセットじゃないと、自分が親になって沙奈子や千早ちゃんや大希くんや結人くんや一真くんや琴美ちゃんを見てればこそ感じるんだ。
反抗的な態度を見せない沙奈子や大希くんは、そもそも反抗する必要がないだけだし、反抗的な態度を見せてた千早ちゃんは、反抗せずにいられないだけの理由があったし、結人くんの場合は、そもそも大人を信用してなかったから『反抗期』みたいに期間が限定されてたわけじゃないし、一真くんと琴美ちゃんは反抗すること自体を諦めてる印象がある。特に一真くんについては、自分がそういう態度をとることで琴美ちゃんに累が及ぶかもしれないのを心配して我慢してるらしい。
一真くんが親に反抗しないのは、琴美ちゃんのためなんだよ。なるほどこういうのは確かに不健康だと思う。




