二千二百七十四 SANA編 「キャラメイク」
九月十八日。日曜日。曇り。
裾がほつれていたり袖がちぎれかけたエプロンドレスを補修して、今日も、沙奈子と千早ちゃんと篠原さんはそれを着て人生部の活動をしてる。
学校の制服はスラックスを選んだ千早ちゃんだけど、『スカートが嫌い』というだけで、男性になりたいわけじゃない。それと同時に、沙奈子の作ったエプロンドレスは気に入ってくれてる。
「なんてーかさ、『色気で勝負』って感じじゃないのがいいんだよね。あくまで仕事着だしさ。学校の制服のスカートって、意味分かんないんだよ。長さも中途半端で別に機能的ってわけでもない。プリーツの所為でポケットは片方しかない。昔のブルマとかスク水もそうだけど、どっからどう見ても特定の誰かに媚びを売るためのそれとしか思えないんだ。そこが気持ち悪い」
だって。でもその上で、
「だけど、沙奈や優佳がスカートを穿いてるのは別にいいんだよ。可愛いし、本人がそれでいいって言ってんだから。だけど、穿きたくないコに穿かせようってのはムカつく」
とも言ってた。千早ちゃんは、他の人の好みにケチをつけるつもりがまったくないのは分かる。あくまで本人の好みの問題なんだ。
波多野さんの場合は、お兄さんのこともあって自分が女性である事実に対する嫌悪感も手伝ってのものだったみたいだけど、千早ちゃんは自分が女性であることについては、
「まー、生理とかはメンドクセー!って思うけどさ、男に生まれた方が楽しそうだったなとは思うけどさ、でも、今の自分も嫌いじゃないんだよね」
と、胸を張って言ってた。
そうだよね。性別も基本的な容姿も、自分では選べない。これについて玲那も言ってた。
「生まれてくるかどうかを自分で選べるってんなら、性別とか見た目とかも選べなきゃダメじゃんって思うんだよね。ゲームのキャラメイクと同じでさ。だけど実際には選べない。これも、好き好んでこの世に生まれてくるわけじゃないってことの証拠だよね。選べるんなら条件いいところを選ぶっての」
ってさ。玲那にとってはそれこそ切実な話だ。だから僕は親として玲緒奈に対しても『僕と絵里奈が勝手にこの世に送り出した』っていう事実を捻じ曲げたりはしたくない。その事実を事実として認めて、僕と絵里奈が勝手にこの世に送り出した分、少しでも安心安全に過ごせるようにしたいと強く思う。
もちろんどれだけ頑張っても、つらいことがある嫌なことがある理不尽なことがある不愉快なことがある。というのも事実だとしても、玲緒奈をこの世に送り出した張本人である僕と絵里奈があの子を苦しめるようなことをするのはやっぱりおかしいと思うんだ。




