二千二百七十一 SANA編 「これ以上の評価は」
九月十五日。木曜日。晴れ。
『一生、結婚するつもりはない』と考える人の割合が、調査を開始してから過去最高になったみたいな話があった。
だけど僕は、『まあ当然だろうな』としか感じなかった。そして、
「いや~、当たり前っしょ」
「だよね」
「俺も思う」
「俺も」
学校から帰ってきて人生部としての活動をしてた千早ちゃんと大希くんと結人くんと一真くんが、その話題で盛り上がってた。
「親を見てたら結婚になんか夢も希望も持てね~っての。パチンカスの父親に秒でキレ倒す母親だよ?。地獄じゃん」
「僕のお父さんとお母さんは仲は良かったらしいけど、結婚には魅力は感じないかな」
「俺なんか実の母親に殺されかけてるからな?。父親なんざそれこそどこの誰かも分かんねえし」
「俺も親を見てたら結婚がいいものだとか思えないよ」
そう語る千早ちゃんと大希くんと結人くんと一真くんに、
「私は、してもしなくてもどっちでもいいかな……」
沙奈子がそう口にする。その上で、
「お父さんとお母さんみたいな感じだったら、してもいい。だけど本当のお父さんみたいなのは、嫌。私も本当のお母さんは誰か分からないし……」
とも。
すると千早ちゃんは、
「だね。沙奈のお父さんとお母さん見てたら結婚も悪くないな~って思うけどさ。問題は相手だよ。相手。沙奈のお父さんみたいな人、滅多にいないじゃん。小父さんもいい人だけど、そういう人ってやっぱさっさと結婚しちゃうんじゃね?」
だって。そんな言い方されると、すごくくすぐったい。僕だって立派な人間じゃないし、絵里奈と出逢ってなかったら結婚なんかしてないと思うし。
そしてそう言う千早ちゃんに、沙奈子は、
「うん。それはそう思う。結婚したいと思える男の人って、今は私もいない。でも、お父さんみたいな人だったらって、思うんだ」
なんてことを。これには思わず苦笑い。嬉しいけど、気恥ずかしさしかない。
「沙奈はホントお父さんのこと好きだよね」
千早ちゃんはちょっと呆れたように言った。
だけど、沙奈子の場合は、最初は僕しか味方がいなかったからね。僕を頼るしか生きる術がなかった。だからそういう意味では客観的な評価ができてないと感じる。
でも同時に、そう思ってもらえるだけのことができてたんだと思うと、少し誇らしくもあるんだ。こういうの、『自画自賛だ』って馬鹿にする人もいると思うけど、そんなのはどうでもいい。大事なのは沙奈子がどう思ってくれてるかだよ。
実の父親からも、父親の交際相手からも、人間として扱ってもらえてこなかった沙奈子が、人間として僕を信頼してくれてるのなら、これ以上の評価はないって気がする。




