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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百二十六 玲那編 「みんなで手作りハンバーグ」

土曜日。朝。二日間だけ仕事して、また月曜日まで休みだ。今日も絵里奈が用意してくれる朝食の匂いで目が覚めた。僕もそれを手伝ってまたキスをしてってしてた。するとまた、しばらく落ち着いてたドキドキが強くなってきてる気がした。前回のデート?からもう二週間経ってるからかなあ。


まあそれはさて置いて、本来なら2日の月曜日から5日の木曜日まで向こうの部屋に行くはずだった絵里奈はお正月だからということでずっとこっちにいてくれたけど、今度の月曜日の夜にはさすがにまた向こうに行くことになってる。それまではみんなでゆっくりして欲しいと思った。


僕と結婚する前もしてからも、絵里奈は変わらずに絵里奈だった。僕のことも好きでいてくれるのは分かりつつも、一番はやっぱり沙奈子なんだなっていうのがすごく分かる。子供が生まれたら奥さんが『お母さん』になってしまって子供が一番になって旦那さんが寂しがるとかいう話をよく聞く。ただうちの場合は、最初から沙奈子が一番というのが分かってるからか、沙奈子を一番に思ってくれる絵里奈だから僕も好きになったからか、それが気になったことはなかった。沙奈子がいつも絵里奈にべったりなのは少し寂しい気もするけどさ。だけど今でも、お膝は僕のでないとダメらしいし、絵里奈ばっかりじゃないっていうのも確かなのかな。


そうだよ。うちは沙奈子が中心なんだ。だからもし、その沙奈子がいなくなったりしたらと思うと、英田あいださんの辛さとかが僕にも想像できてしまう気がする。もちろん僕が英田さんの気持ちが分かるという意味じゃない。英田さんの気持ちは英田さんにしか分からないと思う。僕に分かるのは、沙奈子に何かあったら僕がどう感じるかっていうことだけだから。


でも僕も正気じゃないられないだろうし、絵里奈や玲那だってたぶんそうじゃないかな。だから気を付けても気を付けすぎってことはないって感じる。ただその分、沙奈子のことばかり気にしてたってことが、あの時の判断に影響した可能性も否定はできないんだけどね…。




そんなことも考えたりもしつつも、とにかくみんなで朝食を食べて掃除して洗濯して沙奈子の勉強を見てっていうパターンは崩さなかった。って、沙奈子が勉強してる間、玲那はまた秋嶋あきしまさんたちのところに行ってたけどさ。けど、それも結局は沙奈子のためっていうのもあると思えば、玲那にしかできないことだからね。任せるしかない。


そうそう、そう言えば今日は、千早ちはやちゃんと大希ひろきくんが来る予定なんだよな。ということはたぶん星谷ひかりたにさんも来るんだと思うけど、手作りハンバーグを沙奈子に教えてもらうために来るらしい。日曜日はホットケーキっていうパターンが出来上がってるから、土曜日にってことらしい。


山仁さんのところでも当然できることだけど、千早ちゃんにとっても沙奈子のところに遊びに来る口実でもあるみたいだ。うちが狭いから、ただ遊びにっていうのは申し訳ないって気持ちがあるらしいと星谷さんが言ってたって聞いた。子供でも、やっぱりそういう気遣いとか遠慮とかあるんだろうな。


って思ってたら、千早ちゃんたちが来た。


「沙奈ちゃ~ん」


玄関を開けて迎え入れると、すぐさま千早ちゃんがいつものように両手を振りながら沙奈子に近付いて、ぎゅ~って。


おお?。さすがにそういうのを見たのは初めてだった。沙奈子も千早ちゃんの背中に手をまわして、きゅって抱き締めてた。そうか、さらに親密度が増したんだな。良かった。本当に良かった。


沙奈子に意地悪する嫌な子だって切り捨ててしまわなくて本当に良かったと思った。もちろんすぐに許せたわけでも信用できたわけでもない。慎重に様子を見させてもらうっていうのはしてたつもりだった。それが報われた気がした。そしてこれは、千早ちゃんにとっても大事なことだっていう気がする。きっと千早ちゃんにとっても、沙奈子は大切な友達なんだろうから。


とその時、星谷さんが言った。


「千早、ちゃんとご挨拶してからですよ」


って。


違和感があった。あれ?、と思った。星谷さん、千早ちゃんのことを呼び捨てにしてたっけ…?。


そうだ、そうだよ。以前は確か、『千早さん』って、さん付けで呼んでたよな。それが呼び捨てになってる?。ということは、千早ちゃんと星谷さんの方の親密度もさらに上がったってことか?。へえ、そうなんだ。


考えてみれば、家族だったら『さん付け』っていうのも何だか他人行儀だよな。本当に姉妹のようになるっていうのなら、呼び捨てがむしろ普通か。


千早ちゃんたちは千早ちゃんたちで、きっといろいろあるんだろうなっていうのをまた感じたのだった。




それから、千早ちゃんたちは絵里奈の指導も受けながら手作りハンバーグを作ってた。その様子がまたすごく楽しそうで、『ああ、いいなあ、こういうの…』ってしみじみ思ってしまってた。星谷さんは星谷さんで、


「ヒロ坊くん、立派です…!」


って、ボウルを手にバンバーグのタネ作りに懸命になってる大希くんをうっとりと見つめながら呟いてた。そういうのを恋する女の子の姿って言うのかなとふと思った。星谷さんがいかに真剣に大希くんのことを想ってるのかっていうのも改めて伝わって来る気もする。


それから、沙奈子、千早ちゃん、大希くんそれぞれが作ったハンバーグのタネをいよいよ焼き始めた。いろいろとコツはあるらしいけど、今回は子供でも失敗しにくいやり方として、焦がさないように弱火でじっくりと中まで火を通すという方法にするらしかった。


「さらに美味しさを追求するのは、確実に失敗しないようにようになってから、自分でそれぞれ好みを考えてやってね」


と絵里奈が言った。う~む、そういうものなのか…。


でもそういうのも考えつつ、今はとにかく三人が楽しそうにやってるのが何よりだと思った。男の子の大希くんだって、料理ができて損なことはないって気がする。僕たちも四人で一緒に家事をするのが楽しいし、こうやって楽しくやれるっていう経験は無駄にはならないんじゃないかな。


沙奈子が楽しんでくれるっていうのも大事だけど、千早ちゃんや大希くんも楽しんでくれてこそだって思った。こうやって笑ってられる時間が多ければ多いほど、ストレスも解消されるんじゃないかって気もする。子供だってそれなりにストレスを感じてることはあるはずだ。どうすればそういうのが薄まるかっていうのを考えれば、こんな風に楽しんで笑ってられる時間を作るのが必要っていうのを、子供達も学んでくれるんじゃないかな。


そうすれば、人を傷付けたり苦しめたりするのは結局は自分のためにならないっていうのを理解してくれるんじゃないかなって思ったりしたのだった。


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