二千二百四十二 SANA編 「大人びて見えて」
八月十七日。水曜日。曇り時々雨。
沙奈子が通う高校での学園祭は、新型コロナウイルス感染症の件もあって、開催が危ぶまれていたらしい。実際、中止にする案も検討されたって。
だけど、
『騒がない』
『パフォーマンスはしない』
『コスプレも静かに整列する』
という条件でなんとか開催にこぎつけたそうだ。結人くんのクラスで『自作の作品の展示』になったのも、実は、『プラモデルをすごく上手に作る生徒がいてその生徒の作品を展示する』というのももちろん理由の一つではあるんだけど、
『派手に騒げないんならコスプレする意味ないよね』
って空気があったことも大きかったみたいで。それが『プラモデルをすごく上手に作る生徒がいる』ことと結びついてその結論に。
それでも、こんな状況の中、なんとか工夫して自分たちのお祭りをやろうという意欲は立派だと思う。ただただ、
『いつも通りやらせろ!』
と主張するんじゃなくて、今の状況と折り合うことで実現させようというのがすごいよ。僕が高校生の頃には、そんな情熱みたいなものはまったくなかったからね。
『文化祭なんてくだらない』
みたいに馬鹿にさえしてたから。だけど今では、いろんな考えがあって当然だと思える。もちろん、『文化祭なんてくだらない』みたいに冷めた考えもあっても当然ではありつつ、邪魔をするとかじゃなければ別にいいとも思ってる。
沙奈子も、すごく派手に騒ぐとかいうのは苦手でも、今回の文化祭が『静かに落ち着いた感じで行われる』となれば逆に乗り気になれたみたいだ。
実際、
「コスプレしてダンスするみたいなのも、新型コロナのことがある前はやってたみたい。でも、私はそういうの好きじゃないから、踊らされるんだったら嫌だなって思った。だけど、コスプレして後はおとなしくしてたらいいってなったら、やってみたいかなって思えた」
とも言ってたしね。もっと思いっきり騒ぎたい生徒には残念な感じになるだろうけど、沙奈子にとってはむしろ思い出深い文化祭になるかも。
ただ、そのための『エプロンドレス』を作り始めると、
「やっぱり、ドール用のドレスとは違う……。難しい……」
とも。そもそもの大きさが違うから、必要な技術が違うらしい。そして沙奈子の技術は、自己流のそれに加えて、ネットとかで見付けたのや、星谷さんが見付けてくれた人からビデオ通話越しに教えてもらったものとかばかりで、実際に人間が着られる服用の技術については本格的に学んでいなかったんだ。
「もしかしたらこれからはもっとちゃんと服飾のことを勉強した方がいいかも……」
そう口にした沙奈子が、なんだか大人びて見えて……。




