二千二百三十三 SANA編 「経験の所為か」
八月八日。月曜日。晴れ。
『新型コロナウイルス感染症』の拡大が止まらない。もうみんな、自粛疲れと、ワクチンの接種が始まったことで『どうせもうじき収束する』みたいな空気感があるのかもしれないって印象があった。
だけど僕たちは、みんなで一緒にいられれば別に辛くもないから、確かに自粛疲れは感じつつも、『ペストやスペイン風邪の時も完全に収まるには何年か掛かったんだろうな』って思えるし、『まだ何年か掛かるだろうな』と覚悟はしてる。
『政府は無責任だ!』
『政府は嘘を吐いている!』
みたいなことを言ってる人もいるけど、ワクチンについても副反応のこととかをあれこれ言いだしてる人もいるみたいだけど、『ワクチンの副反応』の件については、正直、僕にはよく分からない。昔にも確かインフルエンザワクチンについても副反応のことで騒がれてたことがあったらしいんだけど、それは結局、どうなったの?。本当にワクチンの副反応の所為だったの?。騒いでた人たちは、その結果がどうなったのか、どうしてちゃんと形にしないの?。
子宮頸がんワクチンの件についても、結局はよく分からないままみたいだね。そこで、沙奈子と千早ちゃんが子宮頸がんワクチンを打つことになった。公費負担で打てる期間がギリギリだったから。高校一年生の間に打てば公費負担でできるんだ。
別にお金の問題じゃないけど、どうやらこれ以上引き延ばしてたって新しい情報も出てきそうにないし、それならと、沙奈子自身や絵里奈や玲那とも話し合って決めたんだ。
その中で絵里奈が言った、
「子宮頸がんワクチンの後遺症を政府が認めようとしないとかなんとかいう話もありましたけど、たとえ子宮頸がんワクチンの後遺症と認められなくても、何らかの『障害』だと判定されれば『障害年金』の対象になりますよね?。だからどっちにしても補償は受けられるということになるんじゃないですか?」
というのが決め手になった。確かに、もし日常生活にも支障のあるような後遺症が出たら、そっちも受けられることになるのかってなったら、結局は『公的な補償を受けることになる』よね。
なにより、日本脳炎やはしかや破傷風といったもののワクチンをすでに接種してきてるけど、ここまで副反応が出たことはなかった。だからそれらと同じということで、接種することにしたんだ。
すると、
「まあ、確かに普通の注射よりは痛かったかな」
「そうかな……。そうかも」
千早ちゃんと沙奈子の感想は、そんな感じであっさりしたものだった。二人とも、虐待の経験の所為か痛みには強かったんだなっていうのを思い出されたな。
副反応らしき症状もまったく出なかったし。




