二千二百三十二 SANA編 「そう、楽しむんだ」
八月七日。日曜日。晴れ。
金曜日に沙奈子が『SANA』に出勤してる間にも、千早ちゃんたちはいつも通り『人生部としての活動』をしてた。
「やましたさ……、沙奈ちゃんは今日はいないんですか?」
篠原さんが問い掛けると、千早ちゃんが、
「うん、沙奈は会社の方に出勤中」
って応えてくれて、一真くんも口には出さなかったけど気にしてたみたいで、
「ああ、なるほど」
とすぐに察してくれた。それからはみんなで自主勉強をして、千早ちゃんがケーキを焼いて、篠原さんもそれを手伝って、ケーキできると一真くんはいったん家に帰り、残った千早ちゃんと大希くんと結人くんと篠原さんでお昼の用意をして、一真くんが戻ってきたところで昼食にして、食後のデザートとしてケーキを食べて、篠原さんはそこで帰っていって、昼からは各々自由時間になって。
沙奈子がいなくても、みんな普通にいつもどおりの時間を過ごすことができてた。だからここは、沙奈子がいなきゃ成立しない場所じゃなくて、ちゃんともう『みんなのいる場所』になってるんだって改めて実感する。そこで寛いでるみんなの表情もとても穏やかで、リラックスしてくれてるのが分かる。
新型コロナウイルスのことは相変わらず大変みたいだけど、ちらほら、周囲でも感染した人の話を聞いたりもするけど、うちはとても落ち着いてるんじゃないかな。世間が大変だからってここの中まで大変でいる必要もないよね。感染症対策については冷房しつつ換気もしつつ、千早ちゃんは将来に向けてのシミュレーションとして消毒とかも熱心に行ってくれてる。これは感染症対策という意味も兼ねた、『食品を扱う仕事に従事する者としての心得』を身に付けるためにやってることだ。
千早ちゃん以外も、知っていて損はないと思う。
「ほらほら、肘のところまでしっかり洗う!。爪の間もブラシで洗う!」
ケーキを作る前や食事を作る前には、ルーチン作業として手指の洗浄・消毒もしっかりと組み込んでやってる。他のみんなも、それ自体をまるで遊びの一環のように楽しみながらやってくれてるのが分かる。
「めんどくせえなあ……」
と結人くんがこぼすと、
「そこ!。ぶつくさ言わない!」
千早ちゃんがツッコミを入れたりしつつ。それ自体がある種の『お約束』になってた。強制してやいやい言うんじゃなくて、そういうのも含めてレクリエーションなんだよ。
和気藹々とした空気感が、画面越しでも伝わってくる。それを見ながら僕も、仕事と玲緒奈の相手を楽しむ。
そう、楽しむんだ。




