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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百二十三 玲那編 「今年も変わらず」

最近、除夜の鐘というのは聞こえてこない気がする。騒音とかに配慮してのことなのかな。確かに遠くから聞こえてくる分には風情もあるかなと思うけど、すぐ近所で鳴ってたらうるさそうだなと思わなくもない。


まだ11時過ぎだけど、僕たちはいつも通り四人で布団に入ってた。沙奈子はもう寝息を立ててる。


「絵里奈、玲那、ありがとう。こんなあったかい気持ちで年越しできるなんて、二人のおかげだよ…」


それは、僕の正直な気持ちだった。これ以上ないくらい、正直な気持ちだった。


「そんな…。お礼を言いたいのは私たちの方です。こんなに幸せになれるなんて、思ってもみませんでした…」


絵里奈がそう言うと、


「そうだよ、お父さん。私たちからしたら、お父さんに救われたんだから…」


と、玲那が僕にぴったりとくっつきながら言ってきた。


僕のおかげだなんておこがましくて恥ずかしくて仕方ないけど、だけど同時に素直に嬉しいって思える。もっと頑張らなきゃって思える。いいな、こういうの。お互いに感謝し合えるって、すごくいい。


そういう温かさに包まれながら、僕たちは眠りに落ちていったのだった。




朝。元旦。でもやっぱり、いつものように絵里奈の朝食の匂いで目が覚めた。


僕もさっそく起きて手伝う。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


囁くように絵里奈が言ってきたから僕も、


「こちらこそ、よろしくお願いします」


って返した。そして新年初めてのキスをした。するとそこに、


「くそ~、新年早々見せ付けてくれるじゃないのさ…!」


と玲那の声が。見れば沙奈子も起きて僕たちを見てた。僕も絵里奈も気恥ずかしくて顔が熱くなった。でも気を取り直して改めて、


「新年、明けましておめでとうございます」


と僕が言うと、


「おめでとうございます」


って、三人が声を合わせて応えてくれた。それから僕と絵里奈は朝食の用意をして、玲那と沙奈子は布団を片付けて、僕たちの新しい一年が始まった。


スーパーで受け取ってきたおせちも合わせた朝食だった。沙奈子はごまめがすごく気に入ったみたいで、ほとんど一人で食べてしまった。それからやっぱり掃除もして洗濯もして、普段通りの時間を過ごした。テレビはきっと正月番組ばかりなんだろうけど、僕たちはニュースくらいしか見ない。玲那はアニメも見るけど、正月番組ばかりでアニメもやってないからつまらないらしい。とは言っても、ネットでもアニメを見られるからそれなりには楽しめるらしい。


「これ、お年玉」


午前の勉強が終わった後で、沙奈子にお年玉を渡した。不思議そうにポチ袋を見て、中にお金が入ってるのに気付いて、やっと意味が理解できたみたいだった。お年玉さえ知らなかったのか…。


金額はとりあえず千円だけど、絵里奈からも千円、玲那からも千円という形で計三千円と、今月分のお小遣い五百円も一緒に渡した。


「ありがとう!」


嬉しそうに言った沙奈子だったけど、もらったお年玉とお小遣いはやっぱりクローゼットの引き出しに仕舞った。これまでに渡したお小遣いもぜんぜん使ってないはずだった。


お年玉と言えば、山仁さんとあらかじめ話をしていた。お互いの子供たちにはお年玉は渡さなくていいということを。何しろ山仁さんのところは高校生のイチコさんと小4の大希ひろきくんの二人だし、しかも冬休み中は、星谷ひかりたにさんを始めとしたイチコさんの友達や千早ちはやちゃんもいるんだから、僕たちが出すお年玉の負担がバカにならないはずだからっていう配慮だった。それに対してうちは沙奈子一人だけだからね。


なんかそういうのも寂しいかなって思いつつも、本音を言えば助かったとも思ってた。大希くんはともかく、高校生の子に千円っていうのも逆にどうかなって気がしてたし。聞けば、割とみんなそういう風にしてるらしい。『うちはこれだけ出したのに、あっちの家はこれだけしか出してない』みたいなギスギスしたのを避けるためってことらしかった。分かる気がする。


その一方で、山仁さんはお子さんやイチコさんの友達には出すって言ってた。星谷さんはともかく他の子の親御さんとは特に交流があるわけじゃないからそっちからイチコさんや大希くんにお年玉ってあるんだろうか?って、他人事ながら心配になる。でもそれも、山仁さんが自身の気持ちとして、イチコさんがお世話になってるからそのお礼ということかもしれない。


ホント、見返りを期待してたらできないことだよなって思った。だって、その子たちは自分の家に居場所がないから山仁さんの家にいるんだろう?。ほとんど一方的に山仁さんにお世話になりっぱなしってことだよね。その上でお年玉までもらうってことになるんじゃないかな。


でも山仁さんにとっては、そういうことには代えられない存在なんだろうなって気がした。イチコさんや大希くんの大切な友達なんだから。その子たちを大切にするのは、結局はイチコさんや大希くんを大切にするためなんだって分かる気がする。だって僕も、沙奈子のために大希くんや千早ちゃんのことも大切にしたいって思えるし。


他の誰かを大切にすることが、家族を大切にすることにもつながる。山仁さんはそう考えてるんだと思う。今なら僕もそう思う。僕もそれを学んだ。


本当だったら僕の両親がそれを教えてくれるべきだったんだろうけど、残念なことに僕の両親はそういうのに全く不向きな人だった。だけど僕は、自分から沙奈子にそれを伝えたい。教えてあげたい。


こちらがいくら気遣っても全くそれに応えてくれない、それどころか一方的にいい目を見ようとする人だっている。親切心に付け込もうとする人もいる。そういう人にまで無制限に気を遣ったり親切にできるだけの器はなくても、自分が大切にしたいと思えた人だけにならそれもできるんじゃないかな。その中でいくらかだけでも返ってくることがあればそれで満足すればいいんじゃないかな。『自分はこれだけやったのに報われない。ヒドイ』っていう風に思ってたら、『じゃあ、どこまでやってもらえたら報われた気になれるの?』って話になってしまうもんな。もっと、もっと、って思ってしまうのも人間の習性なんじゃないかな。


僕だって、沙奈子が何とか無事だったらそれでいいやみたいな風に以前は思ってた気がする。なのに今は、沙奈子に幸せになって欲しい、もっともっと幸せを感じてほしいって思ってしまってる自分がいる。そういうのが際限なく膨れ上がってしまうのが怖い。そうなってしまうと、一体どこまで行けば幸せだって言えるんだ?ってなってしまいそうで。


だから僕は、今でも十分に幸せだって思うようにしてるし、実際に今でも十分に幸せだ。これ以上を望むととんでもないしっぺ返しがありそうで不安になる。それが怖い。


新年早々、またこうやっていろいろ取り留めもなくあれこれ考えてしまってる僕がいる。でもこれが僕っていう人間なんだよな。やっぱり。


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