二千二百十九 SANA編 「奇跡的な条件が」
七月二十五日。月曜日。晴れ。
今日はまた猛烈に暑かった。
その一方で、夏休みに入ってから沙奈子たちは毎日、朝から『人生部としての活動』を行ってる。それこそ一真くんと琴美ちゃんも朝からうちに来てくれて。しかも、自転車で。
それというのも、以前から一真くんと琴美ちゃんのことを気にかけてくれていた近所の人がまた、古くなった自転車を買い替えたということで、要らなくなったのを使わせてくれてるんだって。さらに今度は、家に乗って帰ると両親に勝手に使われてしまうから、その近所の人の家に置いてあるのを借りてという形で。
一真くんのはそれこそごく普通の『軽快車』。そして琴美ちゃんのは、その人のお孫さんが使ってたけど成長して使わなくなった幼児用のそれだった。どちらもさすがにくたびれた印象ではあるけど、まだ十分に使えるのは使えるものだね。
加えて琴美ちゃんは二年生だけど小柄だから、そんなに違和感もなかった。けれど、彼女がもう少し成長したらさすがに厳しいかなという印象もある。沙奈子が以前使っていたのを残してたら使ってもらってもよかったんだけど、四年生の時に買ったものは六年生の時に、六年生の時に買ったものは電動アシスト自転車を買った時に、さすがにこんな形で『置いとけばよかった』と思うようなことになるとは考えてなかったから、引き取ってもらってた。こういうのもタイミングだなあ。
それでも、二人を気にかけてくれている人が他にもいるというのは本当にありがたい。二人がこんなに穏やかな気性でいられてるのは、そういう人たちの姿を見てきたからなんじゃないかな。両親じゃなくそういう人たちを見倣ったことで今の二人になれてるんだという気がする。じゃなきゃもっと荒んだ感じになってても何もおかしくない気がするんだ。
だからこそ沙奈子も一真くんに声を掛けることができた。
「結人と友達になれたのは、鷲崎さんがお父さんと友達だったから。そうじゃなかったらたぶん、友達になれてないと思う……」
沙奈子はそんな風にも言っていた。今でこそとてもいい友達になれてる沙奈子と結人くんだけど、実はとても奇跡的な条件が嚙み合ったからこそのものだっていうのを改めて思い知る。何しろ結人くんは今の一真くんよりもずっと荒んだ印象だったし。
そうだね。人間がどんな人になるかは、『出逢い』にもすごく影響されるはずなんだ。僕だって沙奈子と出逢ってなければ、絵里奈と玲那に出逢ってなければ、今の僕にはなってなかったはずだ。今でも前の職場で、ただただロボットのように心をなくして、英田さんのお子さんが亡くなった事故についても、なんとも思わずすぐに気にしなくなってたと思う。そして、自分が死ぬとなったって、
『やっと楽になれる』
みたいに思ってしまってただけなんじゃないかな。




