二千二百五 SANA編 「山下家のやり方」
七月十一日。月曜日。曇り。
僕は、僕に分かる範囲で得た判断を基に選挙に行ってきた。その結果がどうあれ、もうとやかく言うつもりもない。どんな世の中になったって、僕たちは僕たちにできることをするだけだ。
これは、絵里奈と玲那もそう。星谷さんは早々に不在者投票を済ませてきたそうだし、イチコさんと波多野さんと田上さんも、一緒に投票に行って来たって。山仁さんも、鷲崎さんも、喜緑さんも。
少なくとも僕たちの周りではそういうことをちゃんとしようってみんな思ってくれてるんだな。でも、だからって何もかもが完璧ってわけでもない。みんなそれぞれだらしない部分もあって、自分にとって価値を見出せないことについてはすごく手を抜きまくってたりもする。
イチコさんと鷲崎さんは、基礎的なスキンケアこそするものの、化粧はしたくないからしないそうだ。波多野さんに至っては、
「いや~、だってメンドクサイじゃん?」
と言って、スキンケアすらしてないって。でも同時に、お風呂には毎日入って清潔にはしてるとも。和菓子とは言っても『食品』を扱う仕事だからその辺は気を付けてるとのことで。
一方、田上さんは、軽くとはいえ化粧もしてる。
「なんとなくこの方が落ち着くんですよね」
だって。
さらに星谷さんも、いろんな人と顔を合わすこともあってか、同じく軽くだけど化粧はしてるみたいだ。
それでいて、『家事』となると、
「あんまり得意じゃないですね」
と田上さん。さらに星谷さんは、
「ホームヘルパーに依頼しています」
って話だし。
だから、誰一人、『一から十まで完璧な』人は、僕たちの周りにはいない。みんなどこかしら苦手なことがあって、手を抜いてる部分があって、それで互いに力を合わせて生きてるんだ。
これでいいと僕は感じてる。『完璧な人』がいて、その人の基準に合わせて生きることはすごく息苦しいと感じてる。それぞれ駄目な部分があっても、僕たちの間ではそれを気にしなくてもいいし、必要だったらお互いに補い合えばいい。『子供を育てる』ことも同じじゃないかな。
玲緒奈は僕に一番懐いてて、オムツ替えもミルクやりもお風呂も夜泣きの対応も離乳食を食べさせてあげることも、最終的にはだいたい僕の役目になったけど、玲緒奈がぐずって絵里奈が精神的に追い詰められたりしたら逆に我が家の平穏は保てないと感じたから、これが『山下家のやり方。方針』ってことで正解だったと感じてる。
だって、絵里奈が苛々してたら僕もやっぱりいい気はしなかっただろうし、沙奈子も玲那も居心地悪かっただろうからね。
僕たちはこれからもこれを続けていくだけだ。




