二千百九十三 SANA編 「男らしく」
六月二十九日。水曜日。晴れ。
連日、梅雨とは思えない晴れの日が続いてて、暑い。電力供給が逼迫してると言われても、エアコンを切ることもできないし。そして玲緒奈はそんな大人たちの事情なんてお構いなしで今日もウォール・リビング内を走り回って転げまわって壁に体当たりして、
「うお~っ!!」
って吠えてたりする。その様子を見てるだけならとても女の子とは思えないかもしれない。下手な男の子よりも『やんちゃ』なんじゃないかな。
普通ならそれで、
『もっと女の子らしくしてほしい』
と思うところなのかもしれないけど、僕たちは、
「元気だったらそれでいいや」
そう思うことにしてるんだ。『男らしく』とか『女らしく』なんてどうでもいい。玲緒奈が元気でいてくれたらそれでいいんだよ。
それに、『男らしく』っていうことについては特に疑問もある。
大希くんは、いわゆる『男らしい子』じゃなかった。女の子にも間違われることも多くて、だから今ではそれこそ髪を短くしてて、しかも成長と共に男の子っぽい顔つきにもなってきてるみたいで、さすがに女の子に間違われることはなくなったそうだ。ただ、いまだに『可愛い』とは言われることもある上に『小学生』に間違われることがあるって。背も中学三年の頃から急激に伸びてきて実は沙奈子を追い越してしまったのにね。確かに小学生でも今の大希くんと変わらない子はいるけどさ。加えて彼がまだまだあどけない顔つきなのもあるんだろうな。
ただそれでも背が伸びてきてるのは事実で、いろいろ心配もしてたけど、このままいっても父親の山仁さんの身長は超えないかもしれないけど、ひょっとすると星谷さんは超えるかもしれない。
本人的にもそれが密かに嬉しいみたいだ。
そんな大希くんは、男の子らしい『がさつさ』や『乱暴さ』や『無神経さ』とは縁がなかった。『子供っぽい無神経さ』は少し垣間見せることはありつつ、それは女の子でもあることだしね。『男子らしい無神経さ』とはちょっと違うって感じのそれなんだ。
だけどそんなのは、『見た目もあって女の子と間違われることがある』程度の問題でしかなかったよ。彼は、自分がこうと決めたことに対しては頑固な一面も見せるから、それが、
『みんなと同じようにやりたいことを見付けられてない自分が許せない』
という形で少し拗れてしまったりというのもあって、決してただ『軟弱』ってわけでもないんだ。『分かりやすい男らしさ』がなくても、実質的に困ることはなかったんだよ。
逆に千早ちゃんの方が『男らしい』面もあって、でも、別に何か困ってるわけでもない。




