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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百十八 玲那編 「お迎え」

家に帰ろうとオフィスを出ると、門のところで絵里奈と玲那が待ってくれていた。


「お疲れさまでした」


「お疲れさま」


お互いにそう挨拶を交わすと、玲那はちょっと残念そうに、


「じゃ、私はこれで向こうに行きます。でも明日は午前中に帰りますから。オフ会もあるし」


と言いながら3代目黒龍号に乗って行ってしまった。


「私たちも帰りましょうか」


絵里奈にそう言われて、二人でバス停に向かって歩きだした。


「今年ももう終わりですね…」


しみじみとした感じで彼女が言うと、僕も、


「そうだね。今年は本当にいろんなことがあった」


と返した。


それからは二人ともいろんなものを噛み締めるようにバス停まで黙って歩いて、ちょうど着いたバスに乗り込んだ。バスの中でも会話らしい会話もなく、でも絵里奈は僕にもたれるようにして体を寄せてきてくれた。僕もそれを受けとめて、彼女の重みと体温を感じた。


ほんのちょっと前までは想像もできなかったことだった。ただもう必死に沙奈子を守ろうとしてたらこうなった。本当に本当に不思議だ。沙奈子が家族を取り戻したら、僕にも家族ができたんだもんな。


家の近所のバス停で降りて、今日は絵里奈と一緒に山仁さんの家に絵里奈を迎えに行く。時間は6時前。大体いつもの時間だそうだ。


「おかえりなさい」


山仁さんの家のチャイムを押すと、沙奈子だけじゃなく大希ひろきくんと千早ちはやちゃんと星谷ひかりたにさんと、さらに知らない女の子が階段のところに立って、一緒にそう言ってくれてた。その子の名前は波多野香苗はたのかなえさん。イチコさんや星谷さんのクラスメイトで、絵里奈とは月曜日にすでに顔を合わせてたらしい。実は彼女も、家に居場所がなく昼間は山仁さんのところにお世話になってるということだった。それでも夜は帰らなくちゃいけないということで、ちょうど帰るところだったらしい。


沙奈子と一緒に、千早ちゃんと星谷さんと波多野さんも外に出た。


「また明日ね~」


大希くんとそうやって挨拶して手を振って、ドアが締められた。


「改めて初めまして。波多野です。沙奈子ちゃんともお友達にならせてもらいました。よろしくお願いします」


そう言って波多野さんが僕たちに向き直って頭を下げてくれた。フランクな雰囲気もありつつも礼儀正しい子だなと思った。身長は、ぎりぎり170あるかどうかの僕と比べてもそう変わらない感じで、玲那よりも少し大きくて165はあるかな。髪はすごく短くて、トレーナーにジーンズと、暗いところにいると男の子にも見えそうな感じのボーイッシュな印象の子だった。そんな彼女に対して僕は、


「こちらこそ、沙奈子がお世話になってます」


と、いかにも大人らしい社交辞令で返してた。


「カナお姉ちゃんも優しいんだよ。ピカお姉ちゃんには負けるけど」


不意に千早ちゃんがそう言って、星谷さんに抱きついた。


「え~、千早ちゃんヒドイなあ」


って言いながら頭を掻く様子に、『ヒドイ』とは言いながら確かに仲がいいんだなっていうのが伝わってきた気がした。知らなかったら姉妹だと思ってたかもしれない。


そんな千早ちゃんと星谷さんと波多野さんの三人は、これから近所のファミリーレストランまで夕食を食べに行くということだった。僕たちは絵里奈が沙奈子のために夕食を作ってくれるからということでそのまま帰ることにした。


「バイバ~イ、またね~」


千早ちゃんが手を振ってくれて、星谷さんと波多野さんが頭を下げてくれて、僕たちもそれに応えつつ、歩き出した。沙奈子も「またね~」って言いながら手を振ってた。


「山仁さんのところ、すごいことになってるね」


三人が角を曲がって見えなくなって沙奈子が手を振るのをやめて完全に前を向いて歩きだしたとき、僕は思わずそう言葉に出てしまってた。


「そうですね」


絵里奈が相槌を打ってくれる。その上で、


「でも、今日はいなかったみたいですけど、あともう一人、高校生の女の子がよく来るそうですよ。その子も、家に居辛いらしいです」


って。そうなんだ…。やっぱり他にもそういう子はいるんだな……。でもこうやって、気を許せる人がいるっていうのは救いになってるんだって思いたかった。


「そうか、その子たちが、星谷さんの言ってた、イチコさんを中心にして集まった家族みたいな繋がりなんだな」


ふとそれに気付いて、声に出てた。絵里奈が頷いてくれた。それだけじゃなくて沙奈子まで頷いてた。沙奈子も知ってたんだ。


僕たちとは別のところで、僕たちと同じように集まった人たちがいる。そのことが何となく救いのようにも思えた。


家族というのは、決して血の繋がった人のことだけを指すわけじゃない。夫婦だって元々は他人だ。それが家族になれることもあるんだから、血の繋がりは絶対じゃない。血の繋がった家族には恵まれなくても、こうやって互いに補えあえる者同士で寄り添え合えば、それは家族になれる気がする。


もちろんそれも決して簡単なことじゃないのは事実だ。いくら口先だけで家族家族と言っていても上手くいくとは限らない。複数の人が集まる時には必ず、お互いに折り合いをつけなくちゃいけないことが出てくるからだ。自分の要求ばかり通そうとしたり、自分の気持ちばかり分かってもらおうとしたらそれは上手くいかないと思う。


しかも、僕や沙奈子がそうだったように、絵里奈や玲那がそうだったように、血の繋がった親とさえ上手くいかないということは、その親がまず自分以外の誰かとの折り合いのつけ方を知らないということだから、それを子供に教えることもできないっていうのが一番の問題になるんじゃないかな。そういうことからして手探り状態になるから難しいし、上手くいかないことの方が多いんだろうな。


僕たちは幸い、その辺りが何とかなった。それはお互い、我を通そうとし過ぎなかったことが幸いしたのかもしれない。そして何より、お互いに必要としてる部分を補い合う形だったことが幸運だった気もする。


星谷さんたちがどういう風にしているのかは僕には分からないけど、少なくともあの様子を見る限りだと上手くいってるんだって気はする。星谷さんはすごく我の強い、集団の中では先頭を切って歯向かう相手は捻じ伏せようと力を振るうタイプかもっていう印象はあるのに、実際にはそういうことはほとんどしてないっていう感じもした。そこがすごいと思った。そこまで自分を抑えられるのが本当にすごい。並大抵の精神力じゃないって感じだ。いや、もしかすると目的がはっきりしていることで、そのためには何が必要なのかっていうのをしっかり理解してるっていうのもあるのかな。


彼女のすごさに、改めて唸らされる気がした。そういう人がいるんだっていうのが不思議に思えてしまったのだった。


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