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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千百七十七 SANA編 「手本を言語化する」

六月十三日。月曜日。曇り。




今日は星谷ひかりたにさんの誕生日。だけど残念ながら彼女は仕事でうちには来られない。それが分かってたから、この前の土曜日、水族館から帰った後でささやかにお祝いしてた。もちろん、千早ちはやちゃんがケーキも作って。


だけどそれが終わったらまたすぐ、仕事に戻っていって。


「ごめんなさい。千早。もっとあなたと一緒にいたいけれど、今は大事な時期だから」


それこそ本当に母親のように申し訳なさそうに告げる星谷さんに、千早ちゃんは、


「大丈夫。私にはみんながいるから。それよりピカえの方こそ無理しないようにしてね」


そう笑顔で返した。本当はもっと傍にいてほしいという気持ちはあるんだと思う。だけど星谷さんが仕事をしているのは自分たちのためなんだというのは千早ちゃんにも分かってるんだ。何より、星谷さん自身が本来なら大希ひろきくんの傍にいたいはずなのにその気持ちを押し殺して各地を飛び回っているのが伝わってるっていうのもあるんだろうな。


だからこそ、こうしてみんなと一緒にいることで寂しい気持ちを紛らわすことができてるんじゃないかな。たぶん、


『星谷さんが自分の本心を押し殺してまでもやらなきゃいけないことをしてる』


という事実と、


『寂しい気持ちを紛らわせることができる場所があり人がいる』


という事実の両方があってこそ、千早ちゃんも我慢できてる気がするんだ。そのどちらが欠けても今の千早ちゃんはいない気がする。以前の彼女は、とにかく自分の感情こそを最優先にするタイプだったから。例え千早ちゃんでなくても、


『理由があるんだからとにかく我慢しろ!』


だけじゃ人間は我慢なんかできないっていう実感しかない。それを無理に我慢したことで沙奈子の心は壊れた。そんな沙奈子がここまで持ち直したのも、結局は『それができる環境』を僕たちが用意できたからだろうな。


だから僕たちはこれからもそのための努力を続ける。沙奈子や千早ちゃんや大希くんや結人ゆうとくんや一真かずまくんや琴美ことみちゃんや、そして新たに加わった篠原優佳しのはらゆうかさんに対して一方的に我慢を強いるんじゃなくて、『自分にはどうすることもできない事実と向き合う余裕が持てる環境』を提供し続ける努力をね。


大人が実際にそういう姿勢を子供の前で見せてこそ、そこから学び取ることができるはずだから。


もちろん、それだけじゃ必ず上手くいくわけじゃないのも事実だと思う。それを言葉という形で補うことが必要なんじゃないかな。大人が示した手本を言語化する作業も必要なんだろうなと感じるよ。



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