二千百六十一 SANA編 「自分は客だから」
五月二十八日。土曜日。晴れ。
注文受付や配送についても一切を代行してくれるサービスについては、絵里奈も、
「まあ、いろいろ噂も聞くしね。うちのドレスに対する理解が十分じゃないところに丸投げするというのは、まだ不安かな」
と言ってた。
実は、海外からの注文に対してはすでに、『シンガポールにある他の企業が運営している配送センター』を間借りする形で、小さな営業所を作ってたりもするそうだけど、だからうちの事務所は『本社』という形だったけど、日本の顧客に対しては相応のきめ細やかな対応をしないと評価が厳しくなるという背景もあって、当面の間は自分たちで管理と発送の手続きをする方針なんだって。
日本では顧客対応がとても丁寧だから、それを『当たり前』と感じてしまう人が多いようだね。
もちろん『SANA』でも、顧客対応については丁寧に行うことを社是としている。品物の品質はもちろん、品物を丁寧に扱うことも大事なんだ。イチコさんや田上さんはそれをちゃんと理解してくれている。でも、だからって、
『自分はお客だから偉いんだ。お客の言うことには何でも従うべきなんだ』
的な態度でいられるともちろん気分は良くない。だって、『SANA』で働いているのはみんな人間なんだから。『仕事だから』『お金をもらっているから』で何もかもを我慢しなければならないというのは、僕自身がお客の立場で考えてみても、違うと感じる。
先日、いつも行っているスーパーで、レジがシステム障害起こしたしたみたいで、たまたま買い物に行ってた玲那が、レジだけで十五分以上待たされたらしい。
「いや~、もう遅い時間でお客も少なかったからまだ良かったけど、もし混雑時だったりしたら大分大変だっただろうなって思う」
苦笑いを浮かべながら言いつつ、
「だけどお客で、凄く文句を言ったり怒ったりしてる人はいなかったね。だってシステム障害だったら、現場の人たちにはたぶん何の責任もないことだろうからね。ただちゃんと会計システムを通さないとお釣りも出せないセミセルフレジだったから、現金で払うにしたってお釣りも用意できなかったみたいでさ。レジは打てても会計用の端末との通信ができてなかったみたい。私は念のためにいつも現金を持ち歩くようにしてるし、たまたまちょうど一円まで用意できたけど、現金を持ち歩くようにしてなかった人たちなんかは家族に電話してお金持ってきてもらったりもしてたみたい。キャッシュレスは確かにスムーズにいってる時は便利とはいえ、何かトラブルがあった時には弱いなあと、ちょっと実感しちゃった」
と語った上で、
「だけどそれ以上に、お客が騒がなかったのが本当にホッとしたよ。そんなことされたら、店員さんも困るけど、同じように待ってる他のお客だって嫌な気分になるよね。『自分は客だから偉いんだ』みたいな態度は、店にとってだけじゃなく、その場にいる全員にとっていいことじゃないと思う』
とも述べて、
「確かに…!」
僕も絵里奈も、さらに同じくビデオ通話で話を聞いてた沙奈子も千早ちゃんも大希くんも結人くんも一真くんも頷いたのだった。




