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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百十三 玲那編 「星谷さんの決意」

玲那がお風呂に入って、僕が最後にお風呂に入って、その後は、僕は沙奈子を膝に物件探し、沙奈子は莉奈の服作り、絵里奈は洗濯物の片付けとかアイロンがけ、玲那はアニメ鑑賞と、いつも通りの時間を過ごした。


10時頃になって沙奈子があくびをし始めて、寝る用意を始める。布団を敷いて、沙奈子が僕たちに『おやすみなさいのキス』をして、僕たちはお返しのキスをして、玲那、僕、沙奈子、絵里奈というすっかり定着した位置で横になった。


沙奈子はすぐに寝息を立て始めたけど、僕と絵里奈は顔を見合わせて、何となく微妙な空気になってた。ドギマギはしないけど、こうやって横になって向かい合ってるとホテルでのことが思い出されて、さすがに何だか照れ臭かった。


「…なに二人して思い出してるの~…?」


僕の背後から、そんな声が聞こえてきた。もちろん玲那だった。僕も絵里奈も笑ってごまかすしかできなかった。


「くそ~、『リア充爆発しろ』って気持ちが今こそ分かるってもんだな~…。ジェラシィィィット!」


なんて言葉とは裏腹に、玲那は笑ってた。嬉しそうに笑ってくれてた。そこに彼女の気持ちが込められてるって気がした。


「ありがとう、玲那」


絵里奈がそう言った。そして僕も、


「玲那は僕たちの大事な大事な娘だよ」


って言った。素直な僕たちの気持ちだった。


「…お父さん、お母さん、大好き……」


と呟きながら僕にぴったりとくっついてきた玲那のぬくもりを感じながら、僕はいつしか眠りに落ちていたのだった。




日曜日の朝。今日もやっぱりいい匂いで目が覚めて、僕は絵里奈の朝食の用意を手伝った。その間にまた目が合ったりしてキスをしてってしてると、何だか気分がまた昂ってくる気がしてこれはマズいと思ったりした。落ち着いて落ち着いて、クールダウン。


そう言い聞かせて後は淡々と用意をするようにした。


四人で朝食を食べて掃除をして洗濯を終わらせると、玲那はまた秋嶋あきしまさんたちのところへ行った。そして沙奈子の午前の勉強をする。冬休みのプリントはもう昨日で終わってた。僕と絵里奈がデート?をしてる間に完全に終わらせたらしかった。すごいなあ。


だからいつものドリルをやった。それが終わると、今日はまた大希ひろきくんと千早ちはやちゃんと星谷ひかりたにさんが来ることになってた。


「おじゃましま~す!」


千早ちゃんが先頭になって部屋に上がってきて、一気に賑やかになった。


沙奈子たちがホットケーキを作り始めると、僕や絵里奈と一緒にそれを見守ってた星谷さんが、


「今日は玲那さんはいらっしゃらないんですか?」


と聞いてきたから、


「友達のところに遊びに行ってます」


と答えておいた。まあ、間違ってはいないよな。


「そうですか」と星谷さんは言って、それから沙奈子のことを見てたみたいだった。しばらくそうしてると今度は、


「やっぱり、傷は残ってしまったんですね…」


って呟くように言った。確かに、沙奈子の左手の服の袖からちらちらと傷痕が見えていた。星谷さんの言葉は、少し辛そうな感じに聞こえた。彼女もそう感じてくれるんだと思った。


「そうですね…。でも、あんまり気にしても消える訳じゃありませんから、あれも含めて沙奈子です。僕の娘です」


僕は静かに、でもきっぱりと応えた。そんな僕に、星谷さんはゆっくりはっきりと頷いてくれた。


「山下さんは立派なお父さんだと思います。ヒロ坊くんのお父さんや私の父にも決して負けてません。私、皆さんのことを応援したい。力になりたい。もし、私の力が必要な時には是非おっしゃってください。きっとお役に立ちます」


…これが本当に高校生の女の子の言う言葉だろうか…。


口先だけなら、ただの社交辞令なら、大人なら割と言いそうなことではある気もするけど、星谷さんは高校生だよ?。そんなこと言う必要ないのに、むしろまだ大人に守ってもらう側のはずなのに、こういうことを堂々と言えるなんて、本当にすごい子だと思った。こういう子が大きなことを成し遂げるのかもしれないって思った。


僕たちとは全く違う強さを秘めた子だってすごく感じた。こういう子と知り合えるなんて、沙奈子がいなかったら到底なかったことだって気がする。僕とはまるで住む世界が違うって思える。そんな人ともこうして知り合えたんだなあ…。


星谷さんが僕たちを応援したいと言ってくれるのと同じように、僕も大希くんのことを真剣に想ってる彼女のことは応援してあげたいっていう気持ちになれた。今は小学生と高校生って形で全然違うけど、大希くんが大人になる頃には六歳違いくらいならそんなに驚くほどのことじゃないよな。姉さん女房だって、別に普通のことのはずだ。


沙奈子が大希くんのことをすごく好きそうにしてるなら複雑な気持ちになってたとは思う。だけど少なくとも今は沙奈子にとっては大希くんは友達以上の存在じゃないみたいだし。


ただ、それで言えば、確か千早ちゃんは大希くんのことが好きだったはずだよな。なのにその大希くんのことが大好きな星谷さんのことを、千早ちゃんは『お姉ちゃん』と呼んで慕ってる。


…う~ん…、これは複雑な関係…か?。


でも、僕がこうやって実際に見てる限り、千早ちゃんも大希くんのことを好きで好きで仕方ないっていう印象はないんだよな。むしろそれよりは星谷さんのことの方が好きなようにも見える。


そうだ。確か星谷さんと千早ちゃんが出会ったのは、大希くんとの行き違いがあったのがきっかけだったっけ。となると、やっぱり大希くんへの気持ちよりは星谷さんへの気持ちに傾いてるってことなのかな。


あれ…?。そうなると大希くん、実は沙奈子とも千早ちゃんともただの友達ってことになるのか。


…ドンマイ、大希くん…!。


なんて思ってみたりもしたけど、こうして三人一緒にいる時の様子を見てると、大希くん自身がそういうことを意識してない気もするな。だから別に『ドンマイ』ってこともないのかもしれない。


難しいね。ホントに難しい。僕には理解出来ない気がする。うん。


大希くんと千早ちゃんが作ったホットケーキを沙奈子も含めて三人が食べて、僕と絵里奈と星谷さんは、絵里奈と星谷さんが作ったホットケーキを食べて、星谷さんが持ってきてくれたケーキもいただいて、三人は帰っていった。


帰り際、星谷さんは僕を見て改めて言った。


「私は、ヒロ坊くんと千早さんのことを守りたいと思っています。だから、ヒロ坊くんや千早さんが悲しむようなことを黙って見過ごすつもりはありません。沙奈子さんにもしものことがあったりしたらヒロ坊くんや千早さんが悲しみます。故に、沙奈子さんのことも私は守りたい。それが私の決意です。覚えていてください」


真っ直ぐな強い視線が僕と絵里奈に向けられて、背筋が伸びる思いがしたのだった。


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