二千百七 SANA編 「言ってもらいたかった」
四月四日。月曜日。晴れ。
今日は、沙奈子たちが通うことになる高校でのクラス発表を千早ちゃんと大希くんと結人くんと一緒に見てきて、さらに制服を受け取ってきた。そして金曜日には入学式。本当にいよいよだ。
まるで捨てられた子犬のように部屋の隅でうずくまって心をなくした目で僕を見てた沙奈子。その沙奈子が、夕食の後、高校のブレザーを着て、
「どうかな……?」
って聞いてくる。真新しいブレザーはまだ体に馴染んでなくてそれがまた初々しい。
「うん。いいね。似合ってる」
そうだ。体に馴染んでなくて初々しい感じも含めて、彼女に似合ってるって思う。すると玲緒奈も何かを察したのか、
「ちゃーっ!。ばおばるぶ!。ちゃーっ!!」
沙奈子を見ながら興奮して僕の体を掴んで揺さぶってくる。
「お姉ちゃん、綺麗だってことかな?」
絵里奈が問い掛けると、
「ぼあーっ!!」
さらに興奮して手を振り上げてた。すごく機嫌がいいから、当たりかも知れないね。そんな玲緒奈に沙奈子も、
「ありがとう、玲緒奈」
ふわりとした笑顔を返す。ああ…、いいなあ。すごくいい姉妹だと感じた。歳は離れてるけど、すごくいいんだ。歳は離れていても、沙奈子だって実際にはまだ精神的に幼い部分もある。いまだに僕の前で裸になることにも抵抗がない。裸のままでお風呂から出てきたりもする。
加えて沙奈子の場合は、僕に対する依存心がとても強かったからね。そんな僕を玲緒奈に取られたって考えてたら、もしかしたら玲緒奈に強くヤキモチを妬いてたかもしれない。けれどそれも大丈夫だった。僕は、自分の実子である玲緒奈だけじゃなく、沙奈子のことも見ていられた。それが彼女にも伝わったんだろうなって思うんだ。
沙奈子も玲緒奈もちゃんと人間だよ。人間だからいろんな感情がそこにある。それをちゃんと受け止めることが、相手を人間として認めて接することになると思う。もちろんなんでも完全に受け止めるのは無理だし、それを受け止められない相手もいる。でも沙奈子も玲緒奈も僕の子供なんだ。僕が決断して僕の下にいてもらったんだ。来てもらったんだ。その事実を僕は忘れないし、だからこそ受け止めたいと思える。人間として。
そんな沙奈子を、玲那が抱き締める。
「はいふひはほ、ははほはん」
「大好きだよ、沙奈子ちゃん」と玲那が言ったのが分かった。そしてそれは、玲那自身が言ってもらいたかった言葉なんだろうな。だって人間だから。




