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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二百八 玲那編 「受理と不受理」

「はい、それではこちらの書類についてはこれでけっこうです。ですが…」


役所の時間外受付に書類を提出すると、それをチェックしていた担当の人が、二枚出したうちの一枚を僕たちの方に向けてそう言った。


え?、何か不備があった?。


胸がどきんとなって体が強張るのを感じた。そんな僕たちに対して担当の人は丁寧に説明してくれた。


山下達やましたいたるさんを養親とした書類の方は問題ありませんのでこのまま受理となります。ただ、山下絵里奈さんを養親としたこちらにつきましては、養親となる方は養子となる方より年齢が上でないと養子縁組できないことになっています。ですので、こちらについては不受理となります」


…そんな…。


僕たちはお互いの顔を見合わせて呆然となった。ここに来て認められないなんて…。


とは言っても、そういう風に決まってるのならどうしようもないと思った。残念なのは残念だけど、僕と玲那の養子縁組が成立してるなら、少なくとも僕の妻である絵里奈と僕の娘である玲那だって一応は事実上の親族って言えなくもないだろうから、それはもう仕方ないと僕は思った。


「れいなおねえちゃん、家族になれないの…?」


沙奈子がすごく心配そうな顔でそう聞いてきた。僕はなるべく自分自身を落ち着かせながら答えた。


「大丈夫、僕と玲那お姉ちゃんとはこれで親子ってことになったから、ちゃんと沙奈子のお姉ちゃんに、家族になれたんだよ。心配ない」


そう言うと沙奈子も少し安心したみたいだった。これ以上、ここで押し問答しても意味がない。そんな僕たちの姿を沙奈子に見せたいとも思わない。


「分かりました」


と言って受け付けてもらえなかった書類の方を受け取って帰ろうとした時、担当の人が申し訳なさそうに言ってきた。


「養親になられる方の生まれた日が一日でも早ければ問題なかったんですが…。残念です」


すると、その言葉を聞いた玲那が「あっ!」っていう顔をした。


「私、本当は17日生まれなの。でも生まれたのが確か0時5分で赤口で、だけど16日は大安で、だったらもう16日でってことで、出生届には16日生まれってことにされてたの!」


玲那がそう言うと今度は絵里奈もハッとなって、


「そう言えば私が生まれたのは16日の午前1時10分だった。私が生まれた時の母子手帳、私が持ってて何度も見たから覚えてる。そうよ、母子手帳を見たら実際に生まれた時の時間が分かるんじゃないかな?」


絵里奈と玲那は担当の人に向かって二人で聞いた。


「実際の誕生日が一日でも違ってるっていうことが証明できたら受理されますか!?」


その迫力に圧倒されながらも担当の人は、


「え、と、戸籍の方の生年月日が16日ということになっているということでしたらここで確かなことはお答えできませんが、もしかすると審議の上で受理っていうことは、可能性としてはありえなくもないとは思います」


その答えに二人の表情は、ぱあっと明るくなった。


「じゃあ、その可能性に賭けてみようよ!」と玲那。


「そうね、ダメで元々、やるだけやってみましょう!」と絵里奈。


僕に対して少々強引に迫ってきてた頃の二人の姿がまた見られた気がした。


僕と玲那の養子縁組が受理されたことでとりあえずホッとしつつ、絵里奈と玲那の養子縁組についてもわずかな可能性が残されたということで、二人の鼻息はかなり荒く感じられた。そのテンションのまま家に戻ると、二人は今後のことについて話し始めた。僕と沙奈子はちょっとそれにはついて行けない感じで様子を見守ったのだった。




しばらくそうやって話し合ってた絵里奈と玲那だったけど、いつの頃からか最初のテンションは鳴りを潜め、何かひそひそという感じの話し方になってた。しかも玲那の様子が明らかに変だ。辛そうな目をしてうなだれる感じにも見えた。そんな玲那を絵里奈がぎゅっと抱き締めて、頭を撫でたりもしてた。どうしたんだろう…?。


沙奈子はその間、パズルをしてた。もう何度もやった、初めて僕が買ってあげたパズルだったからか、あっという間に完成に近付いてた。そのパズルが完成する頃、玲那との話が終わったらしい絵里奈がファンヒーターの温度設定を上げつつ沙奈子に向かって言った。


「沙奈子ちゃん、お風呂に入ろうか」


「うん」と頷いて、沙奈子はわずかに残ったピースをそのままにして、絵里奈と一緒にお風呂に入った。その間、僕と玲那は二人きりになった。


「お父さん…、お膝いい?」


玲那にそう聞かれ、僕はもちろん「いいよ」と応えた。僕の膝に座った彼女は、やっぱり少し元気がない気がした。思わずそんな彼女の頭をそっと撫でた時、玲那が口を開いた。


「お父さん…、お父さんが私のお父さんだよね…?」


振り向いてそう言った彼女の目は、僕に縋りつくかのように辛そうだった。そんな彼女に僕は言った。


「もちろんだよ。僕が玲那のお父さんだ。もう、法律上もそうなったんだからね」


僕の言葉に、玲那の目から涙が溢れた。


「お父さん、大好き…」


僕の体に自分の体を預けて、彼女はそう呟いた。


それから少しして、玲那は囁くような声で話し始めた。


「お父さん…、私、一度実家に帰る。私が生まれた時の母子手帳、たぶん向こうにあるから、それを取りに行く。やっぱり、絵里奈ともちゃんと家族になりたい。だから行ってくる。決心がついたら、行ってくる…」


『決心がついたら行ってくる』…。その言葉が重かった。自分の本来の実家に帰るだけのことが、そこまでの決心を必要とするほどのものだっていうのが分かってしまって胸がつかえる気がした。玲那にとって実家に行くというのは、気まずいとか気が重いとか程度の話じゃないんだな。それほどの覚悟が必要なことなんだ…。


「無理はしなくていいからね…」


僕はそう言うしかできなかった。少なくとも僕とはもう親子なんだから、もう十分に家族のはずなんだ。だからこれ以上は無理をしてまで形にこだわる必要はないはずなんだ。だけど玲那は言った。


「うん、分かってる。でもやれるだけやってみたいんだ。私、絵里奈のことも本当に大好きだから…」


そうか…、そうなんだよな…。玲那にとって絵里奈はそういう存在なんだ。だったらもう止めないよ。玲那の思う通りにすればいい。そう思って僕がまた彼女のことを抱き締めた時、沙奈子と絵里奈がお風呂から上がってきた。なるべく見ないようにするために振り返りはしなかったけど。僕が玲那を抱き締めてる様子ももう普通のことってなったのか、絵里奈も特に何も言ってこなかった。と言うか、こうなることは絵里奈も分かってたんだろうなって思った。


今日は、玲那が次にお風呂に入って、僕はまた最後に入った。


お風呂から上がってふと見ると、沙奈子はまた莉奈の服作りをしてた。それから何気なく机を見ると、いくつかのピースがそのままにされて完成しきっていないパズルが置かれてたのだった。


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