二千六十七 役童編 「無人島にでも隔離すれば」
二月二十三日。水曜日。晴れ。
今日は天皇誕生日。
明日、試験の結果が分かるらしい。だけど沙奈子も千早ちゃんも結人くんも平然としてる。大希くんもそんなに気にしてないって。
結果がどうあれ、それに合わせて次の手を打つだけだから、深刻になる必要は別にないんだ。ただ、『合格できなかったら同じ学校には通えなくなる』っていうだけの話。だけど同じ高校に通えなくても、うちに来れば顔を合わすことはできる。『人生部としての活動』はできる。何も問題はない。
それでいいんだと思う。少なくとも沙奈子たちは今回の試験だけで人生が決まってしまうわけじゃない。『人生の岐路の一つ』でしかないんだ。
決して、『僕や絵里奈の思ってる通りになってくれないとおしまいだ』なんて思ってないし、客観的に考えたらそっちの方が当たり前だよね?。どうして僕や絵里奈の思ってる通りにならなくちゃ『おしまい』なの?。僕も絵里奈も別にこの世界のことがなんでも分かってるわけじゃないよ?。自分の人生の中で経験したことしか分かってないちっぽけな人間なんだ。僕や絵里奈が知らないところにまた別の生き方があるかもしれないよね?。なのにどうして『おしまいだ!』って決め付けなきゃいけないの?。
それだけの話だと思うんだけどな。
絵里奈が言う。
「私の両親も、自分たちの思うように生きられないと『生きる価値もない』くらいに思い込んでる人たちでした。確かに父はそれなりの企業に勤めてそれなりの立場に就いてそれなりに成功を収めてる人なのかもしれませんけど、私は決して父が『人として立派』だとは思えないんです。とにかく自分以外の人のことは見下してたりしますし。特に、芸能人とか漫画家とか小説家とか、そういう仕事をしてる人を、『社会不適合者』と見下してましたね。加えて、ネットで好き勝手言ってる人たちのことも、『腰抜けの臆病者』と切り捨ててました。それどころか、『住所を特定して全員、無人島にでも隔離すればいい』とまで言ってましたよ。
玲那の事件の時には確かに私もすごく腹が立ちましたけど、『住所を特定して全員、無人島にでも隔離すればいい』と内心では思ってましたけど、その考えが正しいとまでは思っていません。そんなことをしたって、そういう人はいなくならないでしょうからね。どこかの誰かを平気で傷付けられるような人が育つ環境が変わらない限り」
って。これもまた、僕は共感しかない。誰かを悪者に仕立てて見下したって問題は解決しないって。




