二千六十三 役童編 「どういう形で結婚しても」
二月十九日。土曜日。曇りのち雨。
今日は雨が降り出したこともあって、水族館に行くのはやめておいた。ハイヤーを使うという手もあったけど、別に沙奈子自身が焦る必要もなかったことでやめておいたんだ。代わりに、千早ちゃんの<ケーキ屋のシミュレーション>を行う。
大希くんがいない状態でのそれになりながらも、彼がいない分は結人くんが頑張ってくれてるそうだ。
「俺は別にケーキ屋になるつもりはないんだけどな」
と言いつつ、手際はとても素人とは思えないレベルになってるらしい。実は料理もできるようになったそうだ。ただし、『センス』はないそうで、『まあ、食べられなくはない』って感じらしいけど。でも、将来、一人暮らしとかするようになっても、自分でできるのなら困らないと思う。加えて、結婚とかしても、
『奥さんがいなきゃ自分のことも満足にできない』
なんてのもなくて済むだろうし。昔は何人もの家族と同居してたからできなくても誰かがしてくれたんだとしても、核家族でしかも夫婦共働きという家庭なら、一方的にパートナーに依存するのはおかしいと思う。『最低限、自分のことは自分でできる』のが必要だと思うんだ。社会状況が変化してることを理解もせずそれに自分を適応させていく努力もしない人が『努力』を語るのはおかしいと思うしね。
そういう意味でも、もし、結人くんが沙奈子と結婚するようなことがあっても、彼になら沙奈子を任せられると思う。
こうして身近な者同士で結婚とかするのを、
『狭い世界でまとまってる』
とか馬鹿にする人もいるらしいけど、僕はその意見にはまったく賛同できない。だって、『どういう人かも分からない見ず知らずの相手』に自分の娘を任せるのは普通に不安だし、結婚する方も、『上辺しか分からない相手と一緒に暮らす』なんて、単純に不安じゃないかな。『周りにロクなのがいない』とか感じてる人は、それ以外の相手から選ぼうと思うのかもしれなくても、どういう人か分からない相手を選ばなくても信頼できる人が傍にいてくれるんだったらそこから選ぶ方が確実だと思うんだけどな。
実際、
『どうして結婚する前にそんなことも分からなかったの?』
みたいな理由で、結婚後に揉める夫婦もいたりするよね?。少なくとも僕は、絵里奈がどういう人かよく分からないうちは結婚なんて考えもしなかったよ。そんなおっかないことがなぜできるのか、僕にはまったく理解できないんだ。どういう形で結婚しても赤の他人が口出しするようなことじゃないのは分かってるけど。




