二千四十三 役童編 「すごくいい関係だと」
一月三十日。日曜日。曇り。
今回の大希くんのことで、
『やっぱり厳しい環境でストレス耐性をつけなきゃダメだな』
とか言う人が出てくると思うけど、僕の感覚からすればそれは根本的にずれてると思う。大事なのは今回の躓きをどう経験として活かすかということじゃないの?。実地での鍛錬ということに活かせればそれで問題ないよね?。
『恵まれた環境』で育っても、何一つ躓きがない人生ってそれこそ滅多にないことだと思う。だから実際に躓いた時にそれを活かせばいいだけだよね?。
こんなとんでもないタイミングではあるけれど、だからこそリアルな経験として役に立つんじゃないかな。
だって、『大きな問題』というのは、タイミングを選んで起こってくれるわけじゃないし。
まだ中学生の内に起こってくれたことは、逆に良かったんじゃないかな。今からならいくらでもやり直しがきくだろうし。
僕はそう考えることにしたけれど、
「どうして報せてくださらなかったのですか!?。ヒロ坊くんがそんなに苦しんでるのに、私が何もできなかったなんて、そんなの……!?」
星谷さんが久しぶりにうちに来て、千早ちゃんから話を聞いて、山仁さんにビデオ通話で噛み付くみたいにしてそう言ってて。
「すいません。星谷さんの方も大事な時だったそうで、大希のことで足を引っ張ってはいけないと思い、皆さんにも口止めをお願いしていました。すべては私の責任です」
山仁さんは星谷さんに対して深々と頭を下げながら丁寧にお詫びした。
すると千早ちゃんが、
「ピカ姉えがそうなるの分かってたからみんな黙っててくれたんだよ。今のピカ姉え、カッコ悪いよ」
きっぱりとそう言って。
「ぐ……!」
星谷さんは、言葉を失って。千早ちゃんは、星谷さんのことを実のお姉さんどころかお母さんみたいに慕ってて尊敬してて、だけど言うべきことはちゃんと言える関係で。しかも星谷さんも、千早ちゃんの言葉にはしっかり耳を傾けてくれて。決して一方的に言いなりになることを望んでなくて。
すごくいい関係だと改めて思った。さらに千早ちゃんは、
「私もさ、ヒロのことは何もできなくてすっごいじれったいんだよ。でもさ、私もピカ姉えも、赤ん坊の頃からヒロのこと見てたわけじゃないじゃん?。だったらどう頑張ったって、ヒロのおむつ替えてミルクあげて、赤ちゃんだったヒロの言ってることまでガッツリ聞いてきた小父さんに勝てるわけじゃないじゃん。そんくらいのことも分かんないわけじゃないよね?。ピカ姉えは」
って、星谷さんに諭したんだ。




