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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二十 沙奈子編 「休日」

たぶんそれは、窓の外が明るくなりかけたころだった。僕はまた何かの気配に目が覚めた。見ると沙奈子がいない。まさかと思って布団を手で探ってみたけど、何ともなかった。そうだ、今日はおむつを穿いてもらってたんだ。でも、だったらどうしたんだろう?。


そう思って何となく部屋を見回すと、キッチン横に置いたゴミ箱のところに沙奈子が立っているのが目に入った。手に白い塊のようなものを持ったまま、何か考え事でもしてるかのように固まっていた。それを見て僕はふと気付いた。


「おむつは、普通のゴミの方でいいよ」


僕が声を掛けると沙奈子の体がビクッと跳ねて、手に持っていたおむつを自分の後ろに隠したのだった。そして慌てたように頷いて、僕からおむつが見えないようにするかのようにゴミ箱の前に立って、ぎゅっと押し込んだ。


その様子を見ていて、僕は思った。


すっぽんぽんを見られるのは平気だけど、おねしょしたおむつを見られるのは恥ずかしいのか…?。う~ん。これは、子供心と言うべきなのか、それとも女心と見るべきなのか…?。まあそれがどっちにしても、恥ずかしいという気持ちがあるのなら、やっぱりこちらもデリカシーのない真似は避けた方がいいよな。だから僕はあえて平静を装って、


「おむつ、新しいの使っていいからね」


と、サラッと言った。こういうのはこっちが意識してるような態度を取ると、本人はもっと恥ずかしくなるんじゃないかと思って。


新しいおむつに換えてキッチンで手を洗って、沙奈子が戻ってきた。そしてまた僕の腕に引っ付くようにして横になった。


「布団、汚さなくてよかったね…」


僕のことを見詰めてた沙奈子にそう言うと、ちょっと恥ずかしそうな感じにも見えたけど、「うん…」とまた声に出して頷いた。これでもうほんとに、布団のことで彼女が僕に負い目を感じることが無くなるんだと思うと、布団干しや洗濯の手間が減る以上に僕も嬉しかった。彼女にそんなことで気を遣わせたくなかったし。


なんかほっとした。すごくほっとした。その時の僕は、どんな表情をしてたんだろう。自分じゃよく分からないけど、でも少なくとも沙奈子が安心できるような顔をしてたんだということだけは間違いないと思う。僕が頭を撫でてたらその手を取って、自分のほっぺたに押し当てたから。その時の彼女の顔が、すごく幸せそうだったから。


でも、きっとドラマとかアニメとかだったらすごくいいシーンなのかも知れないけど、僕もずっとこのままでいてあげたいと思ったけど、この姿勢、意外と腕がだるい。沙奈子に僕の腕の重みを掛けるのは申し訳ないと思って自分で支えてたら、思ったよりも辛かった。だから、彼女のほっぺたを撫でてあげた後、頭をポンポンして、


「おやすみ」


って声を掛けた。そうしたら沙奈子も頷いて目をつぶったから、僕も腕を引っ込めて目をつぶった。彼女が残念がってないかと思ってちょっと心配になったけど、すぐに寝息を立て始めたから大丈夫だったみたいだ。それで僕も安心して、再び眠りについたのだった。




二度寝になったからかいつもよりもちょっと遅くなった日曜の朝。僕が起きようとすると沙奈子も目を覚ました。


「おはよう」と声を掛けたら、いつもの様に「おはよう」と応えてくれた。途中で目が覚めちゃったけど、久しぶりにぐっすり寝られた気がする。


「おねしょは大丈夫?」


って訊いたら、


「大丈夫」


って少し照れた感じで沙奈子は応えた。さすがに一晩で二度はしないか。ここ一週間、起きた時には沙奈子の泣き顔か、泣きそうな顔しか見てなかったから安心した。これだけでも紙おむつを使う意味はあったと思った。すぐに解決することじゃないのなら、こうやって気長に付き合っていけばいいと改めて思った。生きていればいろいろあるもんな。


沙奈子にトーストを用意してもらってる間に僕は布団を上げて、床拭き用シートで軽く掃除をした。こうしてると、二人で協力し合って生活してるんだっていう気がした。


トーストを食べて、歯磨きして、さて、今日はいったい何をしようか?。


とまあ、まずは沙奈子の夏休みの宿題だよな。


「ようし、今日も宿題がんばるか?」


腕を振り上げながら沙奈子に訊くと、


「はい!」


と声を出して手を上げた。彼女にそうしてもらうと、僕も楽しくなってくる。だけど僕は、決して沙奈子に、自分に都合の良い人形になって欲しいとは思わない。思わないように気を付けたい。僕がそんな風に思ってたら、彼女はきっと壊れてしまう。そんな風に感じてた。勉強させたかったら自分も一緒に勉強する。と言うか、勉強で、遊ぶ。彼女が自主的に家のことを手伝ってくれる時は、たとえ二度手間になっても面倒臭がらないでちゃんと任せる。楽しみながらそういうことをやれたら、彼女はきっとちゃんとできるようになってくれる。根拠は別にないけど、すごくそう思えた。


テーブルに宿題を並べてさっそく続きを始める沙奈子の横に座って、僕も家でもできる分の仕事を始めた。


横目で様子を見ると、やっぱり何度も答えを見てやっていた。テストじゃないから見ながらやってもいいんだとは思うけど、それでもなるべくは見なくてもできるようになった方がいいんだろうなとは思う。それでもどんどんやっていこうとする姿勢は評価してあげたかったから、あえて口出しはしなかった。


結局また二時間ほどかけて10枚分やって、それに僕が丸点けをして間違ったところを僕が教えながら訂正してもらった。直ったら改めて丸を点けていく。そうこうしてる間にお昼になった。


昼食は目玉焼きとベーコンを焼いて、ご飯と一緒に食べた。ご飯は沙奈子にお米を洗うのを手伝ってもらった。でも、今までも何度か手伝ってもらったけど、沙奈子の手つきを見てたらむしろ僕より慣れてるかもしれないと思った。もしかしたらご飯も自分で炊いて食べたりしてたのかもしれない。そこで僕は思い切って訊いてみた。


「沙奈子はご飯の炊き方、教えてもらったのかな?」


すると彼女は、


「テレビでみて、やってみた…」


と答えた。


やっぱりか…。事情を知らない人は、4年生でそういうことをできるのは立派だとか言うかも知れないけど、僕だって親には全く教わってなかったのに大人になってからでも自分でできるようになった。親が何もしてくれなかったから自分でやるしかなくて身に着いたことを褒めるのは何か違う気がした。それはいい加減な親を勘違いさせるだけだと思った。


だけど今はその<勘違いする親>がいないんだから、


「すごいな、沙奈子は」


と、僕の正直な気持ちを言葉にした。すると彼女は、照れ臭そうに体をもじもじさせた。それを見て僕の顔はまた自然に笑顔になって、そんな僕を見て彼女も笑顔になってくれた。


お昼からは昨日買ってきた1年生の国語のドリルをやってみた。案の定、ひらがなとカタカナはできたけど、漢字があやしい部分があった。間違った漢字はいらなくなったプリントの裏に何回か書いてもらって、それから次のページに移るという形でやっていった。そうやって一時間くらいやったけどさすがに全部はできなくて、また明日ということにした。


今日は外も暑いし、日中は部屋で寛ぐことにした。ネットで動画を視たり、沙奈子でもできそうなパソコンのゲームを探してみたり、だらけた一日を過ごしてみた。


たまには、こういう日もあっていいんじゃないかな。


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