千九百九十七 玲緒奈編 「とにかく経緯を見守るだけに」
十二月十五日。水曜日。晴れ。
夕方。学校から帰ってきてうちの三階に沙奈子たちと一緒にいた千早ちゃんが僕に話し掛けてきた。
「この前の、同級生を刺して死なせた中学生の話、なんか、『イジメじゃなかった』みたいな話になってきてるみたいですよ」
どうやらスマホでネットを見ててそんな話題を見付けたらしい。
「まあ、それが本当かどうかも僕たちには分からないからあんまり迂闊なことは言わない方がいいと思う」
僕が応えると、千早ちゃんも、
「はい。そうですよね。うちだってぜんぜんそういうの無関係じゃないし……」
と口にして、
「だってお姉ちゃんが前に通ってた小学校でイジメた相手がキレてカッターを振り回してお姉ちゃんと一緒にその相手をイジメてた友達が顔に大怪我したのにしても、最初はそのカッターを振り回した相手がメチャクチャにネットで叩かれたそうですもん。なのにそれがイジメが原因だったらしいってなったらいきなり掌返して今度は怪我したお姉ちゃんの友達を叩き出したって。で、一緒にイジメをしてたお姉ちゃんともう一人の友達と、別にお姉ちゃんらの友達ってわけでもないけど何となく同調してたクラスの子らもネットに名前までアップされて叩かれて、マジでメチャクチャになってたって。
その話聞いて、『世の中にはアホしかいないのか?』ってマジ思いましたよ。ロクに事情も知らないのによくそんなことできるなって。実際、事情を知らないから途中で掌返すようなことになったんじゃん。なんで学習しないんでしょうね」
声だけだから表情までは見えないけど、それでも苦笑いを浮かべてるのが想像できる言い方で、そんなことを。
すると今度は絵里奈が、
「ホントだよね。香保理が亡くなったことがニュースになった時も、まったく見当違いなことを言ってたのがたくさんいたし、玲那の事件の時も誰も彼もが好き勝手なことばっかり言ってた。新しい情報が出るたびに攻撃する相手を変えてね。玲那が受けた被害があんまりにもあんまりだったからテレビでは触れないようにしてたら玲那ばっかり攻撃されたりもしたし、なのに週刊誌がそれをすっぱ抜いたら掌返すのが出てきて……。何がしたいの?って私も本当に思った。断片的な情報しか見られないんだったら、勝手な憶測であれこれ言うんじゃなくて、とにかく経緯を見守るだけにすればいいのにね。それができない我慢ができない人って、信用できないよ」
って振り絞るように言ったんだ。




